「カミハテ商店」

knockeye2012-11-18

 ちょっとローカルな話題から始めてしまう。この映画のタイトルに使われている‘カミハテ’という地名だけれど、京都に実在する。少なくとも私の知っているのは、この映画のような山陰の断崖ではなく京都市内。私が京都に住んでいた頃は‘上終町’というバス停があった。この字が‘カミハテチョウ’と訓むとわかるまではちょっとかかったし、わかったときはたしかにちょっとツッコミをいれた、「カミハテって・・・」。
 いまはどうやらそのバス停の名は「上終町京都造形芸大前」に変わっているらしく、この映画を造った北白川派は、他ならぬその京都造形芸術大学映画学科のプロジェクト名のようだ。大学で講師を務めている映画のプロと学生が共同で劇場映画を仕上げる。じつは監督の山本起也も主演の高橋恵子も講師(あるいは講師枠?)なのである。
 しかし、こういう裏話を書くことにためらいを感じるのは、それが与えてしまうかもしれない先入観を懼れるためだが、その先入観がこんなふうにあざやかに裏切られるとは、ちょっと誰も想像できないのではないか。
 不思議な生い立ちにふさわしく、堂々と太い骨格に、ストイックに削り取られた肉体のみで立っている風貌。ふてぶてしいと思うほど観客にこびない。タル・ベーラの「ニーチェの馬」よりはるかに無言で、はるかに多くを語っている。
 この映画はおそらく衝撃的であって、チェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で高評価であったこともうなずける。生い立ちがローカルなのに、到達地点は、国境をはるかに超えている。
 いま、すくなくとも3つの長廻しのシーンについて語りたくなっているのだけれど、やめておいたほうがいいんだろう。
 名も知らぬ若い奴が突然球場に現れてすごい球を投げる、たしかに、これはそんな都市伝説に近い。ただ、やっぱり映画は監督のもので、山本起也の演出に感嘆すべきだろう。
 ところで、私が見た回の上映中ユーロスペースの技師がフィルムチェンジをミスった。途中で3分かそこら止まっちゃったのである。刑事コロンボとかファイトクラブでおなじみの画面の右上のフィルムチェンジのマーク、あれが出たところだったから技師のミスにまちがいないだろう。デジタル化が進んで、上映技師の腕が退化しているんじゃないかと思うな。