- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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この人の『カタロニア賛歌』と『動物農場』は、ごく若い頃に読んだが、とくに、『動物農場』が、当時のわたし(たぶん10代後半か20代前半)には、期待はずれだったらしく、それから興味をなくしてしまった。
それが今になってなぜといえば、こないだの原武史の『1974』を読んだ後、『1984』についてのWikipediaの記事を読むうちに、これは無視して通れないというきもちになった。
それに、2009年だが、この新訳版がでたということもある。たぶん、村上春樹の『IQ84』の波及効果でもあるのだろう。
しかし、読んでみて驚いたけれど、この小説は、ここ数年になってますます、空恐ろしいことになっているのではないか。
それとも、米ソ冷戦の当時、西側の読者たちは、今のわたしのように、背筋が凍る思いでこの本を読んだのだろうか。
これは、まるで現在の中国を描いているようだ。こういう短絡的な感想を持ってしまう自分を、わたしも心のどこかで、あざけってはいる。しかし、尖閣につづいて南方週末の事件となると、その笑いもひきつり気味になってしまう。たしかに中国の寡頭政治がこの小説のような方向へ向かいつつあるように見えるのだ。しかも、世界の情勢はたしかに硬直しつつみえる。
また、中国のことばかりいっていられないのは、最近の日本がたしかに警察国家になりつつあるといういやな予感。
佐藤優、鈴木宗男、堀江貴文、Winnyの開発者、小沢一郎、その元秘書の石川知裕、村木厚子、中田カウス、などなど例をあげていったらきりがない。とくにひろゆきの書類送検はわけがわからない。ひろゆきが管理する掲示板をつかって麻薬取引がされたとして、彼が逮捕されるなら、その麻薬を郵送した日本郵政の社長も逮捕されなければ話がおかしい。
しかも、これだけめったやたらに逮捕しながら、例の明大生の誤認逮捕(誰が考えたって明らかな‘冤罪’だが)については、無実となったあとに、供述書に犯人しか知り得ない事実が書いてあるいきさつについては、「わかりません」で済ましてしまった。
警察がこれだけやりたい放題やっている国は、もちろん警察国家と呼ぶしかない。そしてなによりおそろしいと感じるのは、一般の人が、あんがいすんなりとこの状況を受け入れているように見えることだ。
一部の警察官の不祥事で大多数の真面目なおまわりさんが誤解されている、みたいな寝言を言わせないために、わたし個人が最近体験した、ごくごくちいさな例もあげておこう。
コンビニに行く道の途中で信号機が消えていた。どうでもいいようなものの、ひまだったので、110番して「○○(信号機の下にぶら下がっている住所)の信号が消えてます」と伝えた。すると担当の警察官が「・・・ないですねぇ。」と。「いや、『ないですねぇ』って、その信号の下に書いてある住所をいってるんですよ」とちょっと呆れていると、「小さい地図で探してるんでわかんないです」と逆ギレ。こっちとしてもばかばかしいので、「とにかく、そこが消えているので直してください」と切ろうとすると、「あなたの名前と住所を聞かせてください」と誰何する始末。まったくの善意の通報に対して権力を振り回しているのだ。こうした権力意識は警察の隅々まで行き渡っていると思うべきだろう。
アメリカでは、コネチカットの乱射事件を受けて、銃規制を強化しようという動きがあるけれど、この問題についても、アメリカと日本は合わせ鏡になっているのではないか。
日本人は、自分で自分の身を守る手段を持たなすぎるのではないか。現在、これほど警察の横暴が目に余るのは、私たちが警察に、私たち自身の権利を委ねすぎているからではないか。であれは、私たちはアメリカとは逆に、火器の所持について、いくらか規制を緩和していかなければならないではないか。わたしたちはすこし従順でありすぎるのかもしれない。
今週の週刊文春に宮崎哲弥が書いていたが
社会学者の小熊英二氏は
「個人の武装という理念は、自立した個人の自由、国家権力の制限、コミュニティーの自治など、いずれも近代市民社会が正の価値としてきたものに起源を持っている」
と正しく指摘している(『市民と武装』慶應義塾大学出版会)。
興味深いことに、丸山眞男もまた
「豊臣秀吉の有名な刀狩り以来、連綿として日本の人民ほど自己武装権を文字通り徹底的に剥奪されてきた国民も珍らしい。私たちは権力に対しても、また街頭の暴力に対してもいわば年中ホールドアップを続けているようなものである」と評し、なおかつ「全国の各世帯にせめてピストルを一挺ずつ配給して、世帯主の責任において管理すること」を提案している(『丸山眞男集 第八巻』岩波書店)
と書いているそうだ。