‘Japanize’したのはJapanだけ

knockeye2013-07-12

 菅直人Twitterかなにかで、安倍晋三首相の‘陰謀’みたいなことを言っているのを横目で見て、たしか、そのころにくわしく書いたことがあったのを思い出した。これ。
 安倍晋三というひとが古い自民党のプラチナメンバーであることは間違いないとしても、それが、田中角栄よりはるかに、それこそ、じっちゃんの岸信介まで古い、となれば、それはそれで、この国が田中政治の構造からどう抜け出していくかのテーマには、その古さに期待もできたはずだった。つまり、‘復古’の強い思いは、‘維新’になりうるはずだから。
 しかし、悲しいことに、どうもそうはなりそうにないことは、原発をめぐる態度にもっとも端的にみえるようだ。
 原発推進原発反対かの議論はとりあえずおくが、安倍首相のスタンスには、原発事故の反省も見えないし、エネルギー事業のグランドデザインもみえない。ただ現状をずるずる追認しているだけなのがもっともまずい。
 政権が発足した当初、菅義偉官房長官は、‘自民党に与えられた最後のチャンス’と言っていたが、そういう思いで政治に対しているとはとても思えない。
 リーマン・ショックの後、‘Japanize’ということがしきりに言われた。‘エコノミスト’の表紙を、和装したオバマメルケルのイラストが飾ったこともあった。しかし、その後、どうなったか?。アメリカやドイツが‘Japanize’したか?。方法論こそ違えど、彼らは彼らの信念で、現状を変革していった。
 結果として、ドイツのみならず、アメリカでも、原発は過去のものになりつつあることは興味深い。現状に問題があれば変革するのはだれにとっても当然だが、日本では、「改革なんかしたら格差社会になるぞ」とか、「今のままでいい、日本は‘実は’すばらしい」みたいなことをいうとウケル。
 結局、‘Japanize’なんてものはなかった。ただ、‘Japan’というゆでガエルだけが、古い鍋の底でゆであがるのを待っている。

 おりしも、FIAが電気自動車のレースカテゴリー、フォーミュラEの開催を発表したが、開催地に日本の地名はなかった。かつて、セナとプロストを擁したマクラーレン・ホンダが16戦中15戦を制した80年代を思えば、変革できないものの末路は哀れとしかいいようがない。 

 今月の文藝春秋平野啓一郎が書いているコラムで知って、あ然としたのだが、オバマ戦略核の大幅削減を表明した際に、日本の外相がリリースした談話は
「核軍縮をしても同盟国等の安全を確保できると表明したことを心強く思う」
だったそうだ。
 これだと、‘核軍縮してほしくなかったなぁ’といっているように聞こえる。それもそのはずで、NPT再検討会議の準備委員会でも、日本は共同声明にサインしなかったのだそうだ。理由は、核兵器を「いかなる状況でも使用しないという点が、日本の安全保障政策と相容れない」からだという。日本の安全保障はいまだに‘アメリカの核の傘’でしかない!。だから、国境を接するすべての国との関係悪化を、平然と放置できるのだ。
 日本の政治家、官僚、既得権益者たち、の胸の中では、70年代で時が止まっている。ここに、唯一の被爆国という強い思いがあるだろうか。結局、既得権を手にしているものの願いは、‘平和への希求’ではなく、‘現状維持’なのだ。
 そう思いをめぐらせてみると、ネットで「格差社会」たら「新自由主義」たら、あやしげな概念をふりまわした連中も、意識の上で、既得権益者なのだ。この発見のグロテスクさには言葉を失う。共産党時代を懐かしむロシアの老人のように、何の根拠もなく、ただ漠然と‘変わるのが怖い’、それが彼らの本音のように思える。既得権益者がマジョリティーであることが、つまり、社会主義国の意味なのだ。
 既得権益の構造を破壊しないかぎり、成長戦略がかけ声だけに終わるのはいうまでもない。今、握っているこぶしを開かなければ、何もつかむことはできない。

諮問会議が族議員・業界・省庁を抑えるのは難しい。諮問会議のキーマンである麻生副総理は、基本的に財政拡大論者だ。公共事業が尽きて、斜陽産業が再び危機に陥る時に、麻生副総理が斜陽産業を切り捨てて、産業構造転換を決断するのは難しい。むしろ、公共事業の継続、日銀に国債の更なる引き受けを要求するのではないだろうか。

産業競争力会議の民間委員の中で、唯一政策立案プロセスの現場を熟知する竹中慶大教授は、「小泉構造改革」へのアレルギーがある麻生副総理の反対で経済財政諮問会議の委員に入れなかった。産業競争力会議はバラマキを止める政治力を持ちえないだろう。


 この1月の上久保誠人の予測がほぼ当たってきているように思う。アベノミクスの第三の矢、「成長戦略」の発表が下げた株価は、このところ、また上がっているが、これに関しては、消費税増税前の駆け込み需要という観測が正しいように聞こえる。

 これも以前に書いたことだが、おそらくアベノミクスは消費税増税までの寿命しかない。ファイナンシャルタイムスが指摘しているように、黒田日銀総裁の金融緩和策は、‘時間を買っている’にすぎない。その時間に財政規律を取りもどさなければならないが、消費税増税で財政規律を正常化できないことは、複数の試算ですでに明らかである。消費税増税は、まやかしの成長戦略がおどる銀色の幕を、切って落とすだろう。