「R100」

knockeye2013-10-20

 何かと話題の「R100」を観てきた。
 奇しくも、ことしの4月に、レオス・カラックスの「ホーリー・モーターズ」という映画を観ている間ずっと、松本人志のことが思い出されてならなかった。松本人志ならもっとうまくやれるのに、と思って。

・・・つまり、わたしが松本人志の映画に期待したのは、この「ホーリー・モーターズ」みたいなことだった、のではないかなと、この映画を観てそう思っただけのことだけれど。たとえば、墓場のシーンなんて、松本人志なら、もっと面白いのになと・・・

http://d.hatena.ne.jp/knockeye/20130410

 レオス・カラックスの「ホーリー・モーターズ」と松本人志の「R100」を両方観た人が、世界に何人いるか知らないけれど、もしいたとしたら、その人と話し合ってみたいものだ。わたしは、「R100」の方が数段ぶっとんでると思う。
 まず、気に入らないところをさきにあげておくと、その一、松本人志は出演しなくていい。ちょい役だけれど、あれも別の人がやった方がよかった。
 その二、映画関係者の廊下のシーン、セリフが説明的だったと思う。でなければあそこはもっと生きてたと思う(でも、丸呑みの女王様の所であのシーンが入るのは絶対必要だから、あのシーン自体はよいのだけど、あそこはもっとオチていいはず、セリフが多すぎるんだと思う)。
 上の二つは、つまりシナリオの段階で、セリフがこなれてない部分だともいえる。
 もうひとつは、ボンデージクラブCEOの役者の、飛び込みがへたすぎ。水泳の基礎ができてない。飛び込みシーンだけでも、吹き替えを使うべきだったか、体にキレがない。逆に、渡辺直美にやらせてもよかったかも。渡辺直美よかったけどね。おいしい役どころ。
 気に入らないのはそれくらいで、それもシナリオ全体がよいから気になるだけで、あとは、ただ流れに身を任せてたんだけど、なかでも、登場人物の快感をあらわすCGの使い方。それ自体が、気持ち悪いくらい悪魔的な上に、ストーリーの展開とともに増幅し、テーマと絡み合う。
 松本人志の映画はこれでよいと思う。この方向で続けてほしいと思うけど、何度も言っているけど、松本人志っていうひとを二丁目劇場の頃から観てるものとしては、そもそも、‘東京じゃ売れないだろう’と思っていたのだ。‘わからへんやろ、この笑い、東京の連中には’と。
 しかし、みごとに売れたし、売れたどころではなかった。
 それに始まって今まで、松本人志は、こちらの想像するレベルをいつも越えてくる。正直言って、あの二丁目のころですら、すでに天才だと思っていた。観るこちらが追いつかないすごさに舌を巻くばかりだ。
 さて、映画に関係のないことだが、「R100」を実際に観て、ネットの「R100」バッシングは何なんだろうと考えてみると、これもまた、日本人の例のあれだと気が付くわけだった。ホンットに、ネットの評価を信じるほどくだらないことはない。これが面白くないっていうひとは、いったいダウンタウンの何を面白いと言っていたのか、不思議な気がする。推測だが、このバッシングに加わっているもののほとんどが実は映画を観ていないのではないか。というのは、これだけバッシングしている連中が全員観てるなら大ヒットだよ。
 日本人がなぜこういう熱病に感染しやすいのかはわからないが、これが日本人の業病であることは、記憶にとどめておかなければならないのだと思った。
 映画館のアナウンスが「R100」の入場を知らせると、たまたま近くに座っていたカップルの女の子が「『R100』まだやってんの」と舌打ちせんばかりの口調で吐き捨てたので、私は席を立ちにくかった。