Bunkamuraル・シネマで「バックコーラスの歌姫たち」。これもできれば去年の年末に見るつもりだったのだけれど。この映画は、週刊現代の映画評で井筒和幸が褒めていた(ついでに、井筒和幸の映画評は、小林信彦が褒めていた)。
登場する黒人のバックコーラスの女性たちに、牧師の娘さんという人が多くて、やっぱりゴスペルという文化の厚みみたいなものはひしひしと感じる。音楽に詳しい人がときどき‘黒っぽい’とか‘白っぽい’とかの言葉を使うことがあるけど、ブロッサムズの登場シーンは、その違いをビジュアルでこんなにはっきり見せられるのかっていう驚きがある。ダーレン・ラヴとフィル・スペクターのいきさつなんて、「ドリーム・ガールズ」を地でいっている。ニュー・ヨークで掃除婦をやっているときに、自分が歌う(正確に言えば‘自分の声が歌う’だけど)「クリスマス」がラジオから流れてきたのを聴いて、音楽に戻る決意をした。
メリー・クレイトンがローリングストーンズの「ギミー・シェルター」でバックコーラスを吹き込む時のエピソードもかっこいい。
夜中に電話がかかってきて「イギリスのローリングなんとかっていうバンドが、なんか女性コーラスを探してるんだけど」みたいなことで、あたまにカーラーを巻いたままスタジオ入りして、朝にはもうできてた。って、ミック・ジャガー本人が言ってました。ちなみに彼女はそのとき妊娠中でした。
ローリングストーンズはもともとチェスレコードの‘黒っぽい’音楽にあこがれてバンドを始めた人たちだから、そういうエピソードが多くても不思議じゃない。
「ブラウン・シュガー」が捧げられたクラウディア・リニアも出てくるし、今、ローリングストーンズのコンサートに必ず参加するリサ・フィッシャーもいる。
「シャイン・ア・ライト」っていう、マーティン・スコセッシが撮ったローリングストーンズの映画があるんだけど、思い出してみると、リサ・フィッシャーはあれにも出てた。
さっきのメリー・クレイトンのエピソードはかっこいいなと思うんだけど、何がかっこいいのかというと、それは職人的なかっこよさなんだね。左甚五郎とか、そういうかっこよさ。だから、もともとの感性がアーティストよりはアーティザンで、どこかで彼女ら自身が、無名性にあこがれている部分があるのかもしれない。
この映画の原題は「20feet from Stardam」なんだけど、彼女ら自身がその20フィートの差に、そんなに大きな意味を見ていないかもしれないという気がする。だって、かっこいいからね、バックコーラスでじゅうぶん。ある意味では誰よりも。
タタ・ヴェガが言っていたけど、
「もし、ソロで売れていたら、ここでこうしてあなたと話していないでしょう。きっと‘ヤク中’で死んでいた」
って、必ずしも負け惜しみに聞こえない。ソロでスターであると言うことは、そういうことを要求する何かなんだと思う。
こういう音楽が好きな人には絶対お勧めできる。ほかにも、ブルース・スプリングスティーン、スティング、ジョージ・ハリソン、デヴィッド・ボウイ、スティーヴィー・ワンダー、レイ・チャールズ、マイケル・ジャクソンですわ。
こうやって書いてて、やっぱりオリジナルサウンドトラックを買うべきだったかなという気がしてきますね。
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