「天才スピヴェット」

knockeye2014-12-08

 「アメリ」っていう映画、細かいことはもう忘れたけど、いい映画だった感触みたいのは残っている。ラストにでてくるモビレットっていうペダル付きのバイク、瞽女の絵で有名な斉藤真一が、フランス留学中に小旅行を試みたときの相棒があれだった。それから、クレームブリュレは、あの映画が流行らせた、とか、そんなことしか憶えていないが、とにかくよい映画だった。
 その「アメリ」の監督、ジャン=ピエール・ジュネの新作「天才スピヴェット」を観た。これはじつは先週の日曜日、11月30日だ。
 全編英語で舞台もアメリカだが、この監督の、魅力的なキャラクター、いとおしいモノを作り出す才能は、やっぱさすがだと思う。主役の男の子、天才スピヴェットはご覧の通りだが、母親の昆虫学者(ヘレナ・ボナム=カーター)、父親のカウボーイ(カラム・キース・レニー)の夫婦がとても魅力的。というより、この父母が魅力的であるからこそ、T.S.スピヴェット少年の疎外感が根拠を持つわけ(ところで、この‘T.S.’は、『ガープの世界』を意識しているかどうか)。 
 ただ、ワシントン.D.C.についた後のエピソードはやや弱いように感じた。都会の俗物を笑えないのは、私自身が俗物であるから、という可能性も充分あるけれど、永久機関というモチーフにやっぱちょっと無理がある気がする。映画の中でもふれられているが、エントロピーという考え方がなかった時代の話だ、そんなの。
 でも、コンパクトな原子力発電を発明したアメリカの少年っていたよね。今調べたら、14歳で自宅ガレージに設置する核融合炉を設計したテイラー・ウィルソンだ。5年前のことだから、これがモデルだったのかも、と夢想してみる。10歳の少年が自宅に原子炉を作っちゃうわけ。この物語をハッピーエンドに持って行けるかどうか。これはスリリングだよね。ジャン=ピエール・ジュネは、それを考えていた可能性あると思う。
 もうちょっと筆をすべらせてみると、要するに、原子力発電という、きわめて現代的で社会的なテーマと、家族、親子といった、根源的な問題を直結させて、ドラマにしようと企んでいた可能性。
 だから、双子の兄弟の死も、最初の段階では、原発事故だったんだよ。そうなると、この親子の和解は、すごく射程の遠いテーマになるから、実現したら面白かったけれど、今回は断念ということで、残念でした、・・・って。