「人生の約束」、「ブリッジ・オブ・スパイ」

knockeye2016-01-09

 「人生の約束」は、思ったよりずっとよかった。好評のようだ。江口洋介のキャストがすごくはまってる。西田敏行柄本明を始め、小池栄子、美保純、室井滋、富山側の人物造形がくっきりしている。
 竹野内豊のあの役は、関西人としては、ダウンタウンの浜ちゃんにやってほしかった。根はいい奴なのに、虚勢を張って生きてる。批判されそうだと思うと、先制攻撃で、わざと嫌なことをいう。たとえば、かつての親友を訪ねたら、もう死んでて、しかも、その日が葬式で、親族が集まってるっていうとき、ホントはショックなんだが、ショックだという代わりに嫌なことを言う。
 もっとも、竹野内豊が良くなかったわけじゃない。ただ、キャラクターを客に理解させるのに時間がかかる。後半からは良くなる。浜ちゃんなら、出てきただけでああいう人だってわかるから。いい男で損するって場合、あると思うんです。私としては、日本の映画にもっと芸人を、という思いなわけ。
 新湊の曳山祭りは、丹念に取材されていて、クライマックスを盛り上げた。祭りの撮り方はすごくうまかった。「無法松の一生」とか、古典と比べたくなるくらい。撮影監督、山下悟の手柄だろう。室内のフレーミングでも、天井の照明器具をあえてフレームに入れて、東京の夜との対比が良く出ていた。
 私は、実際のあの祭りを観たことがあるんだけど、そういう観光客の目線より、この映画の方がずっと祭りの内側に入り込んでいる。上り坂の曳山の重さとか、民家との近さとか(西田敏行室井滋のあのシーン)、勢いよく曲がるところの、ちょっと怖い感じとか。ビートたけしの一言が効いてて、はらはらした。
 富山湾の向こうに見える立山連峰は、太平洋側では、東京湾の富士山に当たる。明治に日本に来た外国人は、海の向こうに姿を表す富士山には、感銘を受けたらしい。今はそもそも船で来ないし、ビルも多いし、空気が汚れてるから、どう見えるのか、見えないのか。
 ロシアから日本に帰るとき同船したイギリス人に立山連峰のことを話したが、私が起きたときには曇っていて、見えなくて残念だというと、朝早くは見えていたと言っていた。いま思うとあれは、私の望郷の念を過大評価したのかもしれない。下手な英語だし。
ブリッジ・オブ・スパイ」。
 いま、ハリウッドは、空前の冷戦ブームだが、ついにスティーブン・スピルバーグも手を出した。脚本はコーエン兄弟が書いてる。ハリウッドはなんだかんだ言って、「冷戦で行こう」となると、これだけのタマを揃えられるのはやっぱりすごい。
 最後の電車のとこ、すごくよかった。新聞、おばさんの視線、目が合うトム・ハンクス、目をそらして窓の外を見る、一瞬の光景、車外からガラス越しのトム・ハンクスの顔、車内に戻って、窓の外を見ているトム・ハンクス。この無言のカット割りで、いろんなことが伝わる、気持ちいいラスト。
 それから、この映画も、アナモルフィック・レンズを使ってました。電話がアップになるシーンで気がついた。アナモルフィック・レンズは、本当にブームかも。ワイドスクリーン用に開発されたレンズなので、画面が映画的になる。広角にしても遠景が小さくなりすぎない。アナモルフィック・レンズの画面を見た後、普通のレンズの画面を見ると、安っぽく見えちゃうのは確かかも。
人生の約束 公式サイト
ブリッジ・オブ・スパイ 公式サイト