『映画にまつわるXについて』

映画にまつわるXについて

 西川美和の『映画にまつわるXについて』を読んだ。
 「ゆれる」と「夢売るふたり」についての話が多い。特に、「ゆれる」については、その発想の最初から形になるまでの紆余曲折がたどれる。
 「ゆれる」の最初は、別の企画に行き詰っている中、ふと見た夢を是枝裕和監督に話したのがきっかけだったそうだ。
「女に拒絶されて、その男の表情が変わるところ、見てみたいね」
と、言われたのだそうだ。
 是枝裕和という人は、どうしてこうも的確なんだろう。「ワンダフルライフ」という映画を撮っている時のこと、まだ駆け出しの西川美和が、死後の世界へ旅立つところを演じる一般公募のおばあさんたちの持つ履歴書、小道具なんだが、その「死因」という項目を「なくすわけにはいきませんか?」と提案した。是枝裕和は、しばらく考えた後、その項目を消して、「君が今感じた違和感は、これからものを作っていくと、どんどん薄れていくだろう。でも、その感覚を失わないでもらいたい」と言ったそうだ。
 また、香川照之が、「ゆれる」のシナリオについて、第五稿の台詞に戻せと、直談判にくる件りも迫力がある。
 「私は勇気を奮って、もう一度旧稿を読み直すことにした。そして氏の言葉に賭けてみようと思った。『この(元々の)台詞で足らないというのなら、その中に俺は、足らないと言われているすべての意味を含めて表現してみせる。約束する!』そして、今考えると恐ろしいのだ。あの時、鬼が来なければ、この映画において、ある劇的な場面を産み落とすことが出来なかった。」
文中「鬼」とあるのは、「鬼が来た!」で日本兵を演じた香川照之のこと。
 もちろん、その台詞を書いたのは、西川美和なんだが、映画は、こんな具合に共同作業であることに、セッションっていうか、そういう面白さがある。
 真木よう子をキャスティングした話も面白い。あの「ゆれる」のヒロインは、救いのない「やな女」なので、「この『負』の要素を背負ったヒロインを演じることを、どうかポジティブに捉えてもらいたい、と」話したそうだ。すると、真木よう子は、「私が不安になっているとでも?」という顔をしたそうだ。
「しまった。この人は舐めてかかると大変な人だ。やった。見つかった。愛すべき『憎たらしい女』!」