「或る終焉」

 「或る終焉」は、安楽死を扱った映画。安楽死は重いテーマではある一方で、小説、テレビ、映画などで使い古されたテーマでもある。森鴎外の「高瀬舟」なんかをクラスで読まされて、議論なんかさせられたり。
 つうわけで、テーマに新味はないわけだし、おまけに、今さら「安楽死」に答えなんか出るはずもなし、となると、あとは「どう問うか」の問いかけの文体の問題になってくる。スタイルはあるけど、これといったテーマが思いつかない、といった場合、手を出しがちかも。
 スタイルに新しさはある。ただ、久しぶりに娘に会うだけのことに、あんな引っ張り方がなぜ必要だったかよくわからない。
 決定的にドラマツルギーが崩壊しているなと思うのは、過去の安楽死と現在の安楽死の二つの事件の関係性が、きちんと整理されていない。最初の安楽死と2度目の安楽死との間の時間が、そのまま映画の時間であるわけだから、主人公がこの二つの安楽死をどんなテンションで結びつけるかが、ドラマでなければならなかったはずだが、その描き方はさっと通り過ぎただけのようだった。
 もっとも濃密に描かれなければならない部分が、煮詰めきれていない結果、ラストだけ急に「フィルムノワール」みたく唐突な終わり方にならざるえなかったと見える。
 終末期医療の介護のシーンなど部分をとると妙にリアルなんだが、総合的にみるとなんだか取り留めのないというヘンテコな映画だった。ティム・ロスはあいかわらず魅力的だが。