「ヤング・アダルト・ニューヨーク」

knockeye2016-09-06

 「君の名は。」は、公開2週目の興行収入が、1週目を大幅に上回るまさかの展開で、大ヒットというかもはや社会現象になりつつあるそうだ。止まらんね、この勢い。確かに一年に1本しか映画を観ないって人が「今年は『君の名は。』を観ました」ってったら、なんか納得できる気がする。
 ところで、私は、日帰り人間ドックが終わったあと、ベン・スティラー の「ヤング・アダルト・ニューヨーク」を観に行きました。
 この脚本・監督のノア・バームバックが前に撮った「フランシス・ハ」は、他ならぬ「ハ」が、わざとらしい感じがして見に行かなかった。わざとらしくモノクロだし。
 でも、今回のは、ベン・スティラーナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・サイフリッド

この感じが、「おやっ」と、なんか一波乱ありそうだったんだよね。
 特に、スターウオーズのカイロ・レンでブレークしたアダム・ドライバーが、生き生きしているように見えた。勘ではね。
 だけど、公開から時間が開いちゃったのは、もし、「ニューヨーカーの世代間ギャップ」みたいなことなら、どうでもいいかなと思って二の足を踏んでたわけよ。
 じゃなかったね。もし私と同じ理由で躊躇してる人がいたら、それは杞憂というものです。原題は「while we're young」つうんで、その方が、作品の「苦味」が伝わると思う。
 ベン・スティラーの「ジョシュ」は、10年前に1本だけドキュメンタリー映画を撮って、次回作に取り掛かったまま完成できずにいる、映像作家のような元映像作家の大学講師のようなそんな状態。
 ナオミ・ワッツは、その奥さん「コーネリア」。彼女のお父さん「ブライトバード」は、ジョシュの師匠ともいえる、これは功成り名遂げた著名なドキュメンタリー映画作家なわけだけど、ジョシュとこの義父はあまり上手くいってない。というか、2作目で10年煮詰まったままの映像作家の、嫁のオヤジが押しも押されもせぬ巨匠っていう状況に、ジョシュの側からの一方的な屈折がある。
 そのジョシュの大学の講義を、アダム・ドライバーの「ジェイミー」とアマンダ・サイフリッドの「ダービー」が聴講に来る。ジェイミーも映像作家志望ということで、ちょっとしたことから付き合いが始まり、ジョシュはジェイミーに惹かれてゆく。
 だけど、そろそろ下り坂にさしかかった年齢で、若い世代に惹かれるってことは、同じ職業の場合は特に、焼きが回ってるんだよね。
 このあとの展開はネタバレになるので書きません。まぁ、ミステリーじゃないから、先に知ってたとしても台無しってわけじゃないですけど。
 カイロ・レンだからってわけじゃないけど、「スター・ウオーズ フォースの覚醒」の時の情報管理はすごかったそうですね。マーク・ハミルがインタビューで語ってました。「誕生日プレゼントに何がもらえるかを事前に知っちゃうなんて嫌でしょう。」プレゼント本人が言ってるんだから間違いない。
 この映画のテーマは、是枝裕和の「海よりもまだ深く」と共通していると言えなくもない。「海よりもまだ深く」のコピーは、「なりたかった大人になれなかった大人たち」じゃなかったでしょうか?。で、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」の方が「迷子の大人たちへ」。
 私は、この映画を観終わって、「海よりもまだ深く」を思い出した。それで、是枝裕和のあの映画にエンターテイメント性が不足しているとしたら、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」のジョシュとジェイミーのように、際立った価値観の対立を持ち込めなかったためかなぁと思った。
 ジョシュの義父ブライトバードが記念講演をしているロビーで、ジョシュとジェイミーが言い争っている、その内容が講演の内容と絡んでいくあたりのスリリングさ。
 結末はほろ苦いことになるんだけれど、その苦さは、いったん上げて落とすから、より引き立つんだと思う。