「ザ・ビートルズ 8 DAYS A WEEK THE TOURING YEARS」

knockeye2016-09-22

 日本の映画館ではめずらしく終了後にapplause。私が思うには、観客にアメリカ人がいたからだと思う。私もスタンディング・オベーションしたいくらいだったが、そこは日本人なので。彼らはびっくりしただろうと思う、あまりにもしんとしているので。満員の観客なのに、まるで人がいないのかというくらい。
 日本で暮らす外国の方に憶えておいてもらいたい。日本の観客はほんとに感動していると声も出ない。日本でスタンディング・オベーションなんて見かけたら、それは「仕込み」というものなのである。
 ロン・ハワード監督がビートルズのツアーを追った「THE BEATLES EIGHT DAYS A WEEK THE TOURING YEARS」。すごい映画を見てしまった。
 ビートルズのドキュメンタリーと聞いて、どんな映画を想像しますか?。あのビートルズの秘話?、実はあのビートルズのドラマーがリンゴ・スターになったわけは・・・とか、スチュワート・サトクリフがハンブルグで・・・とか、ブライアン・エプスタインが自殺したのは・・・とか。
 もちろん、あのビートルズだから、どの一面から切り取ってもドラマになりうるし、現にそういう描き方をした作品もある。でも、「あの」ビートルズっても、どのビートルズ?。もう、あのビートルズそのものをリアルタイムで知らない人がほとんど。
 なのに、ほとんどの人は、あのビートルズを知っているつもりになって、噂話で満足している。実際には、何枚かのレコードを聴いただけなのに。
 ロン・ハワードって人のすごさは、「アポロ13」や「ラッシュ」の時もそうだけれど、ど真ん中の直球しか投げない。それが今回はビートルズなんだから。 
 デビュー前後から彼らが行ったライブ、ライブ、ライブの映像。そして、世界中のファンの熱狂。メディアの興奮。 
 たぶん、ロン・ハワードだからこれが作れたと思う。ほかの監督ならしり込みすると思う。そうとは意識せずとも、この熱狂の渦に巻き込まれまいとするのではないか?。あっという間に世界中を巻き込んだこの熱狂を作り手としてコントロールする覚悟があるか?。しかし、ビートルズ自身はその渦の中にいたのだ。
 シェイスタジアムで司会をしたエド・サリバンの顔がアップで映ったけれど、明らかに興奮で上気している。
 シェイスタジアムでのコンサートが世界で初めて野球場で行われたコンサートであるのは知っていたけれど、それは、警備を担当するアメリカ当局からの要請だったとは知らなかった。3千人や5千人の規模の会場でやってもらっては困る、五万人のファンが殺到すると。
 ビートルズの演奏のよさにはびっくりした。そういう理由で手探りで行われたスタジアムライブなので、音響システムが全く間に合わなかった。ちょっと出力の大きいアンプを用意しただけ。だから、メンバーの演奏どころか自分の歌声すら満足には聞こえない。ところが、全然ずれていない。特に、リンゴ・スターのドラムはすごいと思った。
 ここまで読んできてくれた方はすでに「え?」と思ってるかもしれない。この映画の上映時間は140分と、ドキュメンタリーとしては長いが、ここだけの話、なんと、ラストに、アップルがデジタルリマスターしたシェイ・スタジアムのライブが入っている。
 当時の興奮をほんとには知りえないとしても、当時の観客が場内放送用のスピーカーでしか聞けなかった、そのときのビートルズの音楽を私たちは聞くことができる。それは実は、そのときビートルズのメンバーさえ聞くことができない音だった。
 だから思うわけ。すごい演奏だって。
 わたしはけっこうビートルズの映画を観ている。「ア・ハード・デイズ・ナイト」「ヘルプ!」「イエロー・サブマリン」「レット・イット・ビー」。そして、「愛しのフリーダ」(このフレーズがこの映画にも出てきた)、ポール・マッカートニーの「グッド・イヴニング・ニューヨーク・シティ」、「ポール・マッカートニーウィングス ロックショー」。でも、ビートルズのライブって意味では、この映画に勝るものはないと思う。
 ちなみに「グッド・イヴニング・ニューヨーク・シティ」は、2009年、シェイ・スタジアムが取り壊されてシティ・ミュージアムになった時、こけら落としポール・マッカートニーが行ったライブです。
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