「シンクロナイズド・モンスター」

knockeye2017-11-03

 アン・ハサウェイ主演の新作「シンクロナイズド・モンスター」の監督と脚本を兼ねたナチョ・ビガロンドって人は、聞くところによると松本人志のファンだそうで、この映画も「大日本人」を観ていてひらめいたとか。でも、松本人志みたいにハズシていく方向ではなく、緻密に組み立てていくシナリオ。
 オスカーっていう登場人物は、今までの映画ではあんまり描かれてこなかった人物のタイプだと思うが、いやになるぐらい丁寧に描写されている。ああいうタイプ、たしかにいるかもしれないし、来し方を思い返して、あいつだなとか具体的な誰かを思い出せる人も多いかもしれない。もっというと、誰もが自分の中にもあんな一面がないとは言えないなとちょっとうすら寒くなる、そんなリアルな人物描写。
 怪獣映画なんですよね。なのに、その登場人物がいちいちリアル。オスカーもそうだし、アン・ハサウェイの演じるグロリアの、今までNYで調子こいて生きてたのに、ちょっとつまずいちゃった感じとか。オースティン・ストウェルが演じるジョエルっていう田舎の朴訥なイケメンとか、怪獣映画だからかえってリアルに描かなきゃならなかったんだと思う。
 ソウルで「パシフィック・リム」ばりに格闘している怪獣とロボットの世界と、アメリカの片田舎でしょうもないいがみ合いをしている幼稚な大人の世界がシンクロナイズするってのは、実に映画的な寓話。「レ・ミゼラブル」よりみじめさがリアル。みじめさって境遇より性格に宿るんだなってしみじみ納得する。
 でも怪獣映画なんだよね。このリアルな性格劇に怪獣映画というルートで到達してることに驚嘆する。アン・ハサウェイは脚本にほれ込んで、彼女自身も制作に参加している。「マルコヴィッチの穴」を意識していたそうだ。
 ニューヨークと、なんとかいうアメリカの田舎町と、韓国のソウルが舞台なんだが、なぜソウルなのかが映画の終盤に明らかになる。と同時に、オスカーっていう登場人物の正体もわかるっていう、そのシーンが無言の回想シーンなんだが、見事だなと思った。
 スペイン映画では(ああ、書き忘れてたけど、監督のナチョ・ビガロンドはスペイン出身)、「マジカル・ガール」って面白い映画があったが、不思議な物語を紡ぐ人たちですね。