「スリー・ビルボード」

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 「スリー・ビルボード」は、主演のフランシス・マクドーマンドが、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を獲得し、監督のマーティン・マクドナーヴェネチア国際映画祭脚本賞を受賞するなど、評価が高い。
 私ももうじゅうぶんに、いやになるくらい大人なので、このくらい苦くないとおいしいと感じないみたい。でも、アメリカっぽい苦みですな。こないだの「ベロニカとの記憶」みたいに熟成されてない。生々しい苦み。
 あらすじは他のところで検索してくれればいいのだけれど、タイトルの「スリー・ビルボード」ってのは、娘がレイプして殺されたのに、全然犯人が捕まんねえぞって、地元の保安官の個人名をあげて八つ当たりした広告看板を三枚、道路沿いに掲げたってことなわけ。
 なぜそんなことをしたんでしょう?とか、「隠された驚愕の事実」とか特にないわけ。「その真実に涙する」とかもぜんぜんなく、それで、事態が好転するってこともない。むしろ、どんどん悪くなる。
 面白いのは、八つ当たりされた保安官さんがすっごくいい人。なんだけど、娘がレイプされて焼き殺されたって時に、保安官はいいひとだから、じゃ、ま、しょうがないか、ってならないわけよ、親は。
 でも、まわりの他人は、しょうがねぇじゃんよって思ってるわけ、同情して見せてるけど。こういうシチュエーションで映画作ろうって思った時点で、かなりな高得点だったかもしれない。今までの映画は、じつはあいつがすっげー悪い奴、だから、やっつけてやるってって、むちゃくちゃやって、すっきりしてたわけじゃないですか。
 でも、今回の場合、犯人の手がかりは全くない、行きずりの犯罪で、悪い奴は誰かわかりっこないわけです。で、捜査担当の保安官はすっごいいいひと。どこに怒りをぶつければいいんだってことで、フランシス・マクドーマンドが、不条理な怒りに燃えるわけです。そして、その不条理な怒りが怒りを、憎しみが憎しみをどんどん増殖していくわけです。
 主演のフランシス・マクドーマンドと保安官を演じたウディ・ハレルソンもよかったけど、マザコンの巡査を演じたサム・ロックウェルが抜群に良かった。ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞している。
 サム・ロックウェルは、「銀河ヒッチハイクガイド」が映画化されたとき主演した役者さんだった。ただ、原作の面白さは再現できてなかったと思う。原作が面白すぎるからしかたないんだけど、スター・ウォーズを作るくらいの意気込みで作らないと、ばかばかしいけど、壮大な話ではあるので。私が一番悲しかったのは、うつ病のロボットの造形がちゃちすぎてたことだった。
 「月に囚われた男」の主演もやってた。あれは面白かった。ただ、同じ年に公開された、及川光博主演、中嶋莞爾監督、製作総指揮ヴィム・ヴェンダースの「クローンは故郷をめざす」が、同じようなテーマでさらに良かったので。
 いずれにせよ、今まで、ちょっとエキセントリックな役柄が多かったのだけれど、今回の役は単にエキセントリックであるだけではなく、この作品世界が呼吸している空気みたいな重要な役割だったと思う。 
 それから、ルーカス・ヘッジスっていう、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で、冷凍チキンを見てパニックになってた男の子が、フランシス・マクドーマンドの息子役ででてた。