『タクシー運転手』

 韓国の映画。全斗煥大統領時代、戒厳令下で起きた光州事件の実情を世界に報道した、ドイツ人のジャーナリストを、ソウルから光州へ、そして、光州からソウルへと運ぶタクシー運転手をソン・ガンホが演じている。
 最後に、映画のドイツ人ジャーナリストのモデルであるユルゲン、ヒンツペーター本人が登場するが、それまでこれが実話に基づいていることすらうっかり忘れていたくらい、全編これ手に汗握るエンターテイメントである。
 つまり、光州事件について、今更大まかな構図にまで再検証を求められるようになることは今後ともないのは間違いなさそうだし、光州事件そのものではなくて、光州事件にたまたま出くわしたタクシー運転手ってところがミソな映画で、軍とタクシーのカーチェイスのあたりは、泣いてる人もチラホラいたけど、個人的には、ここまでエンターテイメントにしていいものか知らんと、ちょっと引いてた。
 今の文在寅大統領は、5.18民主化運動37周年記念式における演説で、「文在寅政府は光州民主化運動の延長線上に立っています。」と宣言した。
文在寅大統領「現代史の悲劇だった」 民主化運動を弾圧した光州事件から37年(声明全文)
 光州事件から今の文在寅政権までまっすぐで太い線が引けることは間違いなさそうだし、それはよいことだと思う。
 正直言って、前の朴槿恵さんが大統領になった時は「はぁ?」と思った。
いつのまにか立ち消えになったが、朴槿恵が大統領になったそもそもの選挙で国家情報院の大統領選挙介入があったのではないかということが問題になっていた。
 そうでなくとも独裁者の娘が大統領に選ばれるなんてそれ自体どうなったんだろうという思いだったが、国際社会もふつうに受け入れているようだし、そんなもんなんかなぁと思ってたら、それがまた、奇怪な経緯で任期中に失職となった。
 光州事件から文在寅大統領まで、たしかにまっすぐな線が引けるのだが、その途中経過は不可解なので、この線が未来に向かってもまっすぐ伸びていくのかどうか、その辺にやや不安を感じはする。
 で、ちょっと引いてしまったのである。こんな感じで映画化してと思って。ただ、まあ、映画だし。この映画が公開された後、ソン・ガンホが演じたタクシー運転手のモデルとなった人の息子さんが名乗り出て、ずっとわからなかった人物が特定されたそうだ。だから、よかった。
 そういうわけで、面白いし、泣けるし、よくできてるんだが、光州事件そのものに触れているとは言えない。映画だからそれでいいし、映画で光州事件を解明しようと思う方が間違ってるが、大統領選挙の不可解さも含めて、なんか力技で動いていくお国柄かなぁと思った。
 ふりかえって、大震災があっても、原発事故があっても全然動かない日本の状況にはたしかにため息が出る思いだった。