『ムタフカズ』

 青山真治監督は、アニメを映画とは思っていないそうだが、私も同感で、アニメを観に行くときは、映画を観るつもりではいかない。アニメは絵なのだから、私たちが観ているのはそれを描いた人の文体なのである。カメラの前で生身の役者が演じている映画とはやはり違うと思う。
 今日も予告編にアニメ版ゴジラの予告編があったが、主人公の男のイケメンぶりに笑った。もちろん絵だから、イケメンに描こうと思えばいくらでも描けますが、それがキャラクターとして成立するかどうかは考えなければならない。オーディションで、ただイケメンだからという理由で選ぶなんて事がありえますか?。
 たとえば『サイボーグ009』が劇場アニメ化されたことがあった。
 石ノ森章太郎の原作は

こうですよ。ところが劇場版は

こうですよ。これはいったい何をしたつもりなんだ?。イグアナみたいなハリウッド版ゴジラよりひどい。石ノ森章太郎原作のイメージを無残に蹂躙し尽くしている。そして、たぶん一番悲惨なのは、これに携わっている人たちは、これがいいと思っているに違いないことだ。
 もちろん私はこんなのには近づかない。おたくの描いた気持ち悪い絵を何万コマも見せられてたまるか。
 『ムタフカズ』は、

こうなのだ。黒い方が「リノ」という主人公で、声は草なぎ剛。頭が燃えてるガイコツは「ヴィンス」、声は柄本時生。あともうひとり「ウイリー」というのがいて、そいつは満島真之介が声をやっている。
 このアニメを作ったスタジオ4℃は、2006年に『鉄コン筋クリート』の劇場版アニメも作っていて、それは評価が高かった。劇場で予告編を見て、これはたぶんいいぞと思ったが、公開劇場が少なかったせいと、もうひとつは、フランス人が監督している一方では、原作が松本大洋の人気作品なので、置きにいったまで言わないけど、良いとしても良さが読めるかなみたいな気がして、まよっているうちに見逃してしまった。
 そういうわけでずっと気にかかっていたので、今回は迷わず観に行った。ただ、今回も公開劇場が少なく、橋本まで出かけました。2年ぶりです。なぜ憶えているかというと、2016年の11月9日、そう奇しくもトランプ大統領が誕生した日。映画館を出てきたらトランプが大統領になっていた。当時は「クリントンよりマシ」みたいな意見もあったが。
 『ムタフカズ』の原作はバンド・デシネっていって、日本の漫画とはまた別のフランス独自の漫画で、日本の漫画が世界を席巻する間に滅びたのかと思いきや、ちゃんと命脈を保っていたらしい。作者のGuillaume Renard(ギョーム・ルナール)が監督に名を連ねているが、フランスの制作会社ANKAMAとこの人は、たぶん編集しただけだろうと思う。
 絵コンテと監督は、西見祥示郎という『鉄コン筋クリート』の総作画監督だった人が務めている。CGI監督を務めた坂本拓馬のインタビューがあった。この人は、セルルックアニメーション(セル画に描いたように見えるCG)の第一人者だそうだ。
 木村真ニの描いた背景がまず素晴らしい。そして、伊藤美由樹の色彩設計が素晴らしいんだと思う。
 とにかく最初から最後まで絵を堪能できる作品だった。
「監督の西見祥示郎さんと一緒にパイロット映像を制作したのはもう6年以上も前になります。その後、本制作の開始までに約1年を要し、再スタートから1年半ほどで本編をSTUDIO4℃で制作、制作したものをANKAMAに納品し編集・音響工程の後にようやく完成、という長い道のりを経ての劇場公開となります」だそうだ。
 スタジオ4℃は原作者のご指名だったそうで、仕事の確かさみたいなことを感じさせる仕上がりだと思う。