『ボヘミアン・ラプソディ』

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ボヘミアン・ラプソディ

 宮藤官九郎が『ボヘミアン・ラプソディ』を観て、「今年のベストは『スリー・ビルボード』で決まりと思ってたけど、あやしくなった」って、マジか?、だってあの時は、アカデミー賞を獲った『シェイプ・オブ・ウォーター』より上ってベタ惚れだったのに。ってことで、結局、観にいくことにした。
 この映画を見くびってたのは予告編のせいだ、日本版の。猫がピアノを歩いてるところ、ロジャーが鶏にちょっかい出してるところ、それから、フレディが下ネタ言ってるところ、って。どうやったらあんな予告編になるのか知りたい。実際、1週目より2週目、2週目より3週目と、週を追うごとに、興行収入が伸びる、異例の事態なんだそうだが(日本では)、それはあの予告編のせいに違いない。
 ブライアン・メイのインタビュー(まだ公開前の)を見かけたけど、「とにかく脚本がいい」と、この時点でまだ公開にこぎつけるかどうかわからない状況だったみたいで、公開できればいいけどなぁというニュアンスを匂わせていた。実際、企画が動き始めてからだいぶかかったみたい。
 ROLLING STONEのインタビューだった。「映画について何か動きがありますか?」と訊かれてこう答えている。
「あるね。映画が実現したということがニュースだろう。僕らは12年間取り組んできたが、もう間もなくFOXがゴーサインを出し、正式にアナウンスされるだろう。本当にもう間もなくだと思う。」
 ブライアン・メイロジャー・テイラーの2人が音楽監修だけでなく制作に関わったことがこの成功に貢献した。
「この12年間、僕らの知るフレディの本当の姿が伝記映画の中で描かれるように取り組んできた。」と語っている。細かな事実との違いはいろいろあるみたいだけど、コアのところでブレてない。
 ボヘミアンラプソディーを聴いてたころはガキだったんだなと我ながら呆れた。あの難解な歌詞の深刻な内容とかか、考えてもみなかったのか?、俺は。とびっくりする。だいたい、フレディ・マーキュリーをたんにイギリス人と思ってただけだった。髪が黒いのは見りゃわかるけど、17歳までイギリス人じゃなかったとは考えてもみなかった。
 フレディを演じたラミ・マレックもエジプトからの移民だそうだ。アイデンティティに悩む男の物語として表現したと語っていた。
 ゲイやエイズに対する世間の意識は今とは比べものにならなかった。もちろん、移民についてもそうだろう。自分とは何かという問いと、自分が自分であり続けてよいのかという問いに、死に至る病が期限を突きつける状況を考えれば、ボヘミアンラプソディーの歌詞もライブ・エイドのパフォーマンスもその切実さがわかる。この脚本はそこをよく読み込んでいる。
 当時は、フレディ・マーキュリーの個人のものだった苦悩が、今では社会全体に突きつけられている。そういう状況が、このヒットの裏付けとしてある。実在のロックグループを扱いながら、ありがちな音楽映画にとどまらず、時代を写す骨太な作品になっている。そりゃクドカンが褒めるのも納得。