『喜望峰の風に乗せて』

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喜望峰の風に乗せて

 『喜望峰の風に乗せて』は、1968年に単独無寄港の世界一周ヨットレースに挑戦した、アマチュアのヨットマンの実話に基づいている。彼は、ヨット用の測定器「ナビケーター」を発明して販売していたビジネスマン。事業の行き詰まりを打開しようと、それまで外洋に出たことすらなかったのに、資金を集めてこのレースに挑戦した。

 そもそも実話なんだから、レースの顛末や結末を書いてもネタバレにはならないだろうが、なにより、1968年はそんなに昔なんだって痛感した。まるで、世界も人も社会も違ってしまったかのよう。この主人公の行為が当時どんなふうに受け止められたか知らないけれど、いまから振り返るとひどく切ない。


 海賊とか幽霊船とか、船や海にまつわる物語はヨーロッパの人たちのDNAを刺激するのだろう。この実話も今まで何度か作品化されてきたそうだ。以前は、主人公の心が孤独にむしばまれていく、個人に焦点をしぼるロマンティシズムのアプローチだったようだ。

 しかし、今回の映画化はそういう方向ではない。もちろん、コリン・ファースの存在がそれを可能にしているのだが、むしろ、彼の行為をめぐる遠近のひとたちの一喜一憂が興味深いものになっていると感じた。

 人が不寛容になるのと冒険を認めなくなるのはたぶん同じことなんだろう。インターネットで狭くなった世界で、誰もが均質であることを求めて、自分と少しでも異質なものを叩くってことを、リベラルも保守もやっているのは奇妙な光景だ。インターネットは人を自由にすると思われていたのに、人が自由を求めているってことがたぶんウソだったんだろう。多くの人は不自由を求めているってことを当時の私たちは知らなすぎたのかもしれない。

 映画としては、コリン・ファース+実話だから成立したってところか。コリン・ファース+実話なら『英国王のスピーチ』はもちろん、真田広之と共演した『レイルウェイ 運命の旅路』もおすすめしたい。