スタンダード・サイズで、鎌倉で、これは、小津安二郎じゃないかと、それだけでワクワクした。
今という今に追いついた映画作家が突然現れたような軽い立ちくらみみたいのを感じる。ちょっと底知れない感じがする。
『枝葉のこと』がはらんでいた暴力の匂い(とでもいうしかないもの)は、影を潜めて、一転、明るく饒舌でユーモラスな空気が漂っている。が、3人、あるいは2人の登場人物の間で交わされる会話に、何かしらの断絶と緊張感が観客には見える。
通じない会話はやがてモノローグのようになり、深まることなく地べたに落ちていく。『2人のローマ教皇』の会話がやがて告解となり癒しとなっていくのとは対照的だ。
お互いが分かり合える言葉を持たず、依存といじめの世界で、かりそめのお仕着せの関係で満足している。
主人公のみのりと1度寝た男が未練たらしい告白をするシーンがある。歯が浮くほど虚ろな言葉しか吐かないが、しかし、主人公自身もそれ以外の人間関係を見つけられない。
海辺にひとりで座っている主人公に寄り添ってくるのは、結局、ナンパ男でしかない。
桃井かおりの感想が聞きたい。若い頃の桃井かおりが演じたかも知れない役だと思う。
『枝葉のこと』に出ていた廣瀬祐樹と三好悠生がまたいい味を出していた。二ノ宮隆太郎監督のキャスティングのセンスも絶品だと思う。