- 作者:江國香織
- 発売日: 2017/11/07
- メディア: 文庫
江國香織の小説は、腹が座ってると思う。それは、このラストにとくに感じることで、ややもすればファンタジーにふわういていくかもしれないモチーフを、最後に剛速球で度肝を抜いた感じはある。
江國香織は信頼している作家のひとりで、しかも、これは谷崎潤一郎賞受賞作だから。谷崎潤一郎賞も信頼していたりする。
若い女性が三人出てくる。フェミニズムの議論を朝まで聞かされるより、こういう小説を読む方が頭が柔らかくなる気がする。
表題は、幼稚園に通ってる男の子、拓人くんが、言葉が少し遅れてるんだけど、なんか、虫と喋れるみたいって描写がある。こういう超自然的な設定って、普通なら小説の世界を破壊しそうじゃないですか。ところが、ぎりぎりのところで、そういうこともしかしたらあるかな、くらいのところで、引っ張っていけるのが江國香織って人の腹の座ってるところなんだと思う。
この小説の登場人物がもしネットニュースで取り上げられたとしたら、叩かれないで済むのは拓人のお母さんただひとり。ほかの人は、どこかおかしいか、過去になんかあったか。だけど、この小説を読んで行くうちに、このお母さん奈緒さんひとりだけが間違ってるような感じになっていく。それはコミカルといっていいんだけど、江國香織は澄ましてる感じ。それが、ボケとしてはかなりハイレベルだと思う。もちろん、ボケじゃないけどね。
そうね。江國香織の小説は、作家の肉声が聞こえないんだ。それが腹が座ってると思わせる処なんだと思う。
三人の若い女性だけでなく、もうふたりの女性がいるけけど、どの女性の側にも作家の「私」が顔を出さない。それはすごいと思います。
この小説はとくに、カエルやヤモリの言葉もあるわけだから、そのどこにも作家の自己弁護がきこえないのは大したもなんだなと思う。