『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』と『ペイン・アンド・グローリー』のノスタルジー

f:id:knockeye:20200709101353j:plain
A rainy day in NewYork

 これは2017年の映画なのだそうだ。この公開が今年にずれ込んだについては、#MetTooの余波だそうで、私の記憶では、その事件はかなり古い話だし、しかも、ウディ・アレンが勝訴したはずだ。それから特に新事実が出てきたわけでもない。ただ、まったく無関係な事件で#MeTooが盛り上がって来たからってだけで、いまになって蒸し返されるのは、一事不再理の原則からも芳しくないし、それに加えて、何となくムードに流されて、映画界追放みたいな。どうなんだろうと思う。
 余計と思いながら、ひとこと言うと、冤罪と思う根拠は、21歳の女性と浮気する男性は、7歳の女の子に手は出さないだろうということ。性癖が違う。
 まあ、そのおかげで、コロナウィルスの震源地になるとはまだ夢にも思っていなかった2017年のニューヨークを観ることができると思おうか。
 ある雑誌のインタビューで
 「この作品には、ノスタルジーがこめられているのでしょうか?」と問われたウディ・アレン
「もちろんだ。保証するよ、この映画はノスタルジーで溢れている。」
と答えている。
 コロナ禍のおかげで、また別のノスタルジーがのっかってしまったが、ウディ・アレンのノスタルジーはもうお家芸になっている。最近の作品では『ミッドナイト・イン・パリ』、『ローマでアモーレ』、『マジック・イン・ムーンライト』、『カフェ・ソサエティ』、『女と男の観覧車』は、ノスタルジー抜きには考えられない。
 しかし、これらの作品と違って『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』は、時代設定が現在であるのが面白い。時代のかわりに雨が、ノスタルジー役を演じている。
 宮藤官九郎が話していたが、映画では雨をふらすのにすごいお金がかかるそうで、雨を降らせたいというと、お金を管理する立場の人から「どうしても降らせなきゃダメですか?」と言われるのが、日本映画界の現状だそうで、それを聞いていたから、ほぼ全編雨が降っているこの映画が何とも贅沢に思えた。
 それともう一点は、撮影監督のヴィットリオ・ストラーロのカメラが、絵作りの面からの説得力を深めているようだ。ウディ・アレン作品には『カフェ・ソサエティ』、『女と男の観覧車』につづき三作品目の参加だそうだ。『女と男の観覧車』のときは特に絵が重厚で、ウディ・アレンらしからぬ画面が、主役のケイト・ウィンスレットと似合っていた。『女と男の観覧車』は、アメリカでは興行が振るわなかったらしいが、#MeTooのとばっちりだとしたら、何なんだろうと思う。
 ウディ・アレンをそういった興行的な成功という意味での人気監督にした映画は『ミッドナイト・イン・パリ』だと思う。けれども、あれがなぜあんなにヒットしたのかよくわからない。今ふりかえると、2011年のあの映画は、まだノスタルジーに取り組み始めたばかりではなかったろうか。個人的には今回の方が好きだ。
 セレーナ・ゴメスとティモシー・シャラメのキスシーンは名シーンだと思う。あれが全然クライマックスではないところがシナリオの肝だと思った。ラストのデラコルテ・クロックという動物園の時計台のところと、定型的なラブストーリーなら順序が逆になるはず。あそこでの引っ張り方、というか、じらし方がよかったです。
 セレーナ・ゴメスのセリフが印象的。
「現実なんて夢をあきらめた人のための言葉よ」
とか
「運命だからしょうがないじゃない」
とか。ファム・ファタルは印象的なセリフを吐く役回り。
 セレーナ・ゴメスは、ジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』にも出ていたけれど、こちらの方が断然おすすめです。
 話がそれるけど、ジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』はいったい何だったんでしょう?。ゾンビ映画にしてはゆるすぎて笑った。ジム・ジャームッシュ×アダム・ドライバーなら『パターソン』が断然いいし、ジム・ジャームッシュ×ティルダ・スウィントンなら『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』の方がお勧めです。
 『ジンジャーの朝』のエル・ファニングは今回コメディエンヌに徹している。たぶん、エル・ファニングが出てきた時点で、この子がヒロインなんだろうなって観客が思うだろうという計算なのかもしれない。ところがそうじゃなくて最後まで天然でひっかきまわすのが面白い。
 エル・ファニングの演じる「アシュレー」は大学新聞の取材で、リーヴ・シュレイバー演じる映画監督にインタビューするためにニューヨークに行く。ティモシー・シャラメ演じる「ギャツビー」はその付き添いを口実に彼女と小旅行を楽しむつもりなのだが、アシュレーがごたごたに巻き込まれてすれ違っていく。 
 というストーリーなので、映画にかかわっている人がいっぱい出てくる。ジュード・ローとかもでてくるのだけれど、そっちが全然主筋じゃないのも面白かった。
 ウディ・アレンはノスタルジー界の巨匠かも。ペドロ・アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』のアントニオ・バンデラスペネロペ・クルスもたしかに良かったが。比較する必要はないけれども、『ペイン・アンド・グローリー』は自伝的でありすぎる気がした。
 そんなことないのかも。単にホモセクシュアルが苦手なだけかもな。
 同じく自伝的ならアルフォンソ・キュアロンの『ROMA』くらい突き放してくれた方が、つまり、ディテールは想像で補うしかない、くらいのほうが浸れたと思う。

ティモシー・シャラメ×エル・ファニング『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』海外版予告

パターソン(字幕版)

パターソン(字幕版)

  • 発売日: 2018/03/07
  • メディア: Prime Video

女と男の観覧車 (字幕版)

女と男の観覧車 (字幕版)

  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: Prime Video


6/19公開『ペイン・アンド・グローリー』本予告