『ミッドナイト・スワン』ネタバレあり

 『ミッドナイト・スワン』は、観ようかどうしようか迷っていた。そういうのはたいがい観ないで終わることが多いが、たまたま宮藤官九郎がラジオで絶賛していたので、今回は観るって方に天秤が傾いた。「草彅剛に限界はない」と。このふたりは『中学生円山』で一緒に仕事したんだよね。
 オリジナル脚本ではなく原作の小説があるそうだ。そのせいか色んな要素があって、観終わっても謎が残る。
 草彅剛の演じる「なぎさ」はゲイのショーパブで働いている。草彅剛って人のルックスに女性的なものは何もないじゃないですか。だからこのキャスティングはすごかった。途中で、いったん男装(?)する場面では違和感を感じたほど。その姿を見た桜田一果(新人の服部樹咲が演じている、これがすばらしい)が「何それ!」と怒りを爆発させる。でも、それは最初の待ち合わせに持っていた写真の姿だから、そこでなぜ一果が怒りを爆発させるのかは謎なのである。
 この子(一果)は、なぎさの姉の子で、児童相談所からこの子を預かることになった時、彼女には自傷癖があった。この子が境遇に負けずに、バレエの才能を開花させていくのがストーリーの縦軸になっている。そういう狂言回しの役どころのためもあり、この子自身の感情は極端に抑制的に描かれている。また育ってきた環境が抑圧的であったこともその抑制に説得力をもたらしている。それがバレエという無言の舞踏劇の表現とうまくあわさってバレエシーンはどれも美しい。
 だから、余計なことだけれども、海辺のシーンも無言であってよかったかもしれないとも思う。映画的にはそれまでの積み重ねがあるので、無言の方が伝わるものがあったかもしれない。
 というのは、とくにそれに呼応するシーンとして一果のバレエ教室のともだち「りん(上野鈴華が演じている、これもすばらしい)」の最後のダンスのシーンがある。あれが一果にとって重くないわけがないので、海辺のシーンは無言でいいと思うのだけれど。
 というより、・・・と言い始めるとやはりネタバレになるのでここから先は、映画を観ていない人は読まないでください。





 というより、りんの死が一果の側で処理されていないように感じた。そのあと一切ふれられないのはやはりおかしい。映画的にも何らかの形で回収されなければもやもやする。
 その意味では、海辺の一果の舞踏シーンは、りんの最後の舞踏とリンクしていてよかったのではないかと思う。
 なぎさが最後に死ななければならなかったか疑問に思う。なぎさは水川あさみの演じる一果の母親(なぎさの姉)と対決して敗れている。それまで隠していた自分自身を家族に晒しても、一果にバレエを続けさせようとした捨て身の行動に敗れたのだから、死に値する重さがあったと思う。
 それにあえてなぎさの死を重ねると、センチメンタルに流れる危険性があるし、そのためにりんの死が宙ぶらりんになってしまった印象もある。
 なぜなら、あの後も一果がバレエを続ける決断をしたということは、一果がりんの死を乗り越えたということなので、海辺の舞踏シーンはそれを表現していなければならないと思うのだ。一果がりんの死を乗り越えられたのはなぎさの捨て身の行動のおかげだからだ。だから、もしそこでなぎさが死ぬのであれば、その死はりんの死とかさならなければおかしいと思う。
 もうひとつにはりんと一果の関係がある。バレエ教室の同級生というと、ありきたりな設定なら、いじめとか対立とかになりそうだが、この映画では、りんと一果が疑似恋愛関係にあるのも新しかった。ふたりのキスシーンも印象的なシーンだ。まだ10代の女の子がキスをしたからといって、それをLGBTなどとカテゴライズすることもないとは思うが、しかし、戯れであったはずもないのだから、一果となぎさのシンパシーはそこにもあったと捉えることもできる。
 なぎさが一果に初めて会った日に「うちらみたいなもんは一人で生きるしかないのやけ、強くならんといかんぞ」と、言ったのも不思議な符号ではあった。
 こんな具合に、未解決の謎を含みつつも、力業でストーリーが進んでいくのは、草彅剛、水川あさみのお芝居の力と、服部樹咲、上野鈴華のバレエの美しさによるだろう。
 これは間違いなく、ジャニーズを辞めた後の草彅剛の代表作になったと思う。
 蛇足ながら、『台風家族』って映画もあったんだけど、感心しなかった。新井浩文の最後の映画になるかもしれなかったので、その意味でもちょっと残念な感じで、いわゆるスベってる感じだったのが、今回で完全復活な気がする。
 新しい地図の他の二人は、稲垣吾郎の『半世界』も良かったし、香取慎吾の『凪待ち』も評判が良かったので、これで3人が揃い踏みした感じで頼もしい。
 ちなみに、LGBTとバレエを扱った映画では、『GIRL/ガール』っていうベルギーの映画があって、あのバレエシーンも素晴らしかった。

半世界

半世界

  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: Prime Video
凪待ち

凪待ち

  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: Prime Video
Girl/ガール

Girl/ガール

  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Prime Video

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