『わたしの叔父さん ONKEL』すこしネタバレ

 デンマークの映画と聞いて思い出すのはただひとつ『GUILTY』だけなんだが、なかなか日本にまで流れてこない国の映画なだけに厳選されているってことなのかなぁ。デンマークって、アンデルセンハムレットしか思いつかんが。ただ、2006年の『アフター・ウェディング』っていうデンマーク映画がハリウッド・リメイクされたそうだ。来てるのかも、デンマーク映画
 『わたしの叔父さん』は東京国際映画祭でグランプリを受賞していて、その時の審査員長がチャン・ツィーだったそうだ。そういうこと全部ひっくるめていい感じ。
 監督はフラレ・ビーダセンという人。80年生まれというから40歳。脚本もこの人が書いている。独特のユーモアで間合いがすごくいい。フライヤーには、同じ北欧ということもあり、アキ・カウリスマキと比較されていたが、わたしだけの感じ方かもしれないけど、カウリスマキのギャグって間は外すじゃないですか?。フリがないっていうか。この映画はその点きちんとしてて日本のお笑い好きにも親しみやすいと思った。
 ただ、主人公は笑える状況ではない。実の父が自殺して身寄りのなくなった主人公を引き取って育ててくれたのが叔父さんなんだけど、その叔父さんも身体を悪くして主人公が進学を諦め牧場を手伝わなくてはならなくなった。主人公と叔父さんの感情は、だから、複雑。お互いにすごく気遣っている。そして、お互いに気を遣わせまいとしている。そのシチュエーションがあるのでたくまざるユーモアが生まれる。
 ただ、シチュエーションを遊ぶコメディーに終らない。ひとりも悪役が出てこないだけに、ラストはすごく怖いと思った。
 こここらはネタバレになるけれども、ラストで、主人公と叔父さんが毎朝の食事中に見ていたテレビが壊れる。それまで淡々と伝えていたニュースは、アフリカからEUに押しかける難民のニュース、北朝鮮の核開発のニュースなど、それまでは、お互いの気遣いをまぎらわすためにテレビに視線を向けていただけって感じだったのだが、そのテレビが突然壊れたことで、叔父さんが主人公にとっての難民や北朝鮮になったかのような気がしてしまう。
 それまでずっとTVニュースに字幕がついていたのがここで生きる。ていうかふつう朝食の時に流れてるTVニュースに字幕なんか付けないのだから、これは狙いだったのだ。
 日本映画ならこんなオープンエンディングにしないと思う。中盤のほっこりした感じがすごくいいのだから、結末にもう少し明るい未来を望ませて終わらせたくなるのではないか。もちろん、明るい未来もまだまだ可能だと思うのだ。ただ、映画がそれを提示しないので、観客には、難民や北朝鮮の問題と同じ地平にこの映画の2人が並べられてしまう。
 2人の善意と隣人の助けだけではどうしようもならないとしたらどうすればいいのか。そういう一瞬の戸惑いで鮮やかに映画を切り上げるエンディングが見事だったと思う。ほっこりした2人の関係は変わらないと思うのだけれど、あの一瞬に何かが覗いてしまった。目を背け続けるわけにいかないという覚悟の芽生えみたいなものとともに映画が終わる。

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