親を憎むきっかけの話

 YouTubeで「にけつ!」を観てたら、千原ジュニアさんのお子さんが熱性痙攣を起こして病院に駆け込んだ話をしていた。
 それでは注射をしますって段になると、お父さんお母さんは外に出てくださいって、病室から締め出されるそうだ。あとで聞くと、これは、もの心つかないお子さんに注射をする場合、両親がそばにいると、見知らぬ大人に押さえつけられてめちゃくちゃ怖くて、痛くて、必死で助けを求めてるのに、両親は何もしてくれなかった、助けてくれなかったっていう記憶がトラウマに残るからだそうだ。なので、子供に注射をするときには、両親を病室から遠ざけるのが今のやり方だそうだ。
 それで、はたと思い出したことがある。私個人のいちばん古い記憶は、何かの予防接種みたいな、たぶん注射を受けにいく時の記憶。しかし、注射そのものではなくて、父方の祖母に突き飛ばされている記憶。ひどい雨降りの中、水溜りに突き飛ばされている。泣いて許しを乞うているが、何度取り縋ってもその度に突き飛ばされて、そのたびに火がついたように泣いている。
 父方の祖母なので遠慮があり、母は私を助けてくれなかった。母を憎んだ憶えはないが、あの体験がわたしの世界を認識するベースになったんだろうと思い当たった。苦笑いするしかないが、私のひねくれた性格はあの時に出来上がったのだろう。せめて祖母を憎み続けてそれを忘れなければよかった。そうはならず、それは私の原体験になっちゃった。現実感があるのは、泣いている自分、突き飛ばされている自分、泥水で汚れて惨めな自分、それだけで、誰かを憎もうというほどの物心さえついていなかった。
 ときどき、おりにふれ、というか、ずっと、穴が空いた砂袋みたいな気分になる。体が動かなくなる。
 いまさらそんな言い訳を見つけてみても何にもならないが、ホントにせめて祖母を憎めたらよかった。ときどき、幼児退行めいた怒りの発作が起こるだけとはな。