第七回日本翻訳大賞を受賞した『マーダーボットダイアリー』を読んだ。
この主人公がどうやら女性(というのはそもそも性別がないとされているからおかしいんだけれども)らしいと、ほとんど終盤になってぼんやりわかるのが面白い。
これだけ面白いのだから、コンテンツを漁りまくっているアメリカの映画界がほっとかないと思うが、そうすると登場から草薙素子ばりのセクシーでマニッシュな感じになるんだろう。それはそれでヒリヒリしてよいのではないかとおもう。
言われてみると、登場人物に女性がすごく多い。あと、ミキっていうロボットの登場シーンがすごくうまい。ルックスの描写がほとんどないのが心にくい。「この手の映画によく描かれるような・・・」みたいな描き方なんだが、幅がありますからね。『エクスマキナ』から『チャッピー』まで。
そういう造型的なところを全部読者の想像に任せて平気で話が進んでいくところが実に小説的でいい。
今、上下巻が出てるんだが、実はまだ続きがあるそうで、現在鋭意翻訳中だそうだ。
大賞を受賞した中原尚哉さんと賞の創設者の柴田元幸さんの対談が聞けた。
柴田元幸さんはこの翻訳について、特に「弊機」という一人称についていたく感動してたみたい。
主人公は警備に特化された機種なんだけれども、かつてコマンドの暴走で大量殺人を犯してしまったらしい。その記憶は消去されて別の現場に配属されているのだが、彼女(という代名詞もあとがきにしか使われてない)は、クローンと機械の合成なので、クローンの部分に記憶が残留している。それがトラウマで、基幹システムをハッキングして、システムのコマンドに隷属しないようにしている。かといって普段は、システムの指示通りを装っているし、こっそりダウンロードしたテレビシリーズに耽溺するぐらいのことしかしていない。
このメタファーが刺さるんだと思う。たまたま乗り合わせた船のAIがけっこう知性的だったりするのも、実は未来というより今なんじゃないかと思う。
ちなみに、ダブル受賞した『失われたいくつかの物の目録」の翻訳は、これはまたがらっと変わって、なんかこう特別なアプリで、各国の翻訳者が原作者もまじえて情報を共有しながら翻訳を進めたそうなのだ。いかにもドイツらしくて面白いと思った。