『由宇子の天秤』ネタバレあり

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由宇子の天秤

 主演は、「大豆田とわ子と三人の元夫」で、東京03の角田さんのお相手をしていた瀧内公美さん。テレビジャーナリストの役どころだけど、上司の川瀬陽太さんさえまだ契約社員だったから、立場としては不安定みたい。かたわら、父親の経営する学習塾で講師をしている。
 
 由宇子の父親を演じているのは、『彼女の人生は間違いじゃない』でも瀧内公美と父娘だった光石研さん。塾を経営しているその由宇子の父が、生徒の一人を妊娠させてしまう。
 由宇子がジャーナリストとして追いかけていた事件は、いじめを苦に自殺した女子高生と、肉体関係を持っていたと報道されて、彼もまた自殺してしまった高校教師が、実は冤罪だったんではないかという追跡取材。
 一旦、マスコミにレッテル付けされてしまった人の悲惨な体験を目の当たりにしているわけで、それと同じことが自分にも起こりかねないという状況に置かれて、由宇子の判断が狂い始めているのだろうと推量することもできる。
 だけど、妊娠している女子高生に、親の心当たりを尋ねた結果、それが自分の父親だと言われて、ふつう、それを鵜呑みにするかなぁ。「あいつならやりかねない」みたいな父親ならともかく、そういうキャラに描かれてないし。
 自分の父親が女子高生を妊娠させたと聞いても、あまりにも冷静に振る舞う由宇子が、女子高生がウソをついていると疑ってみもしないのはどういうことなんだろうと、観客としては、謎が謎を呼ぶ展開に引きずられてしまうのだけれども、最後までその謎は解明されない。
 だけでなく、女子高生の父親に「お腹の子の父親は私の父です」みたいな告白をするんだけれど、いやいや待て待て、まだわかんないし、っていう。
 そして、取材していた事件の方も、事実誤認だったと分かってしまう。全然見込み違いだったとわかる。
 つまり、この主人公である由宇子は、ジャーナリストとしても、プライベートでも、間違いまくってるわけ。観客としては、正直いって呆気にとられるんだけど、でも、ジャーナリストでも何でも人間ってこのくらいバカになっちゃうことはあるよなっていう、そんなリアリティを何故か感じてしまう。
 問題は、それが作品の意図だったのか、それとも全くの失敗なのかってことなんだけど、十中八九ほんとに失敗なんだと思う。というのは、やっぱりラストの告白で、命と尊厳に関わることを、事実かどうかわからないまま、あんな軽率に告白してしまうのは、ドラマとしても脈絡がないし、リアルでもない。
 なので、失敗なんだと思うが、ただ、プライベートの事件と、ジャーナリストとして関わっているパブリックな事件との対比構造がしっかりしているので、登場人物の行動が常軌を逸していても、しっかりした構造とのコントラストで逆にリアルに見える。 
 最後に破綻してしまうのは、やっぱり女子高生(萌)の人物造型が生煮えだったからだと思う。親子ほど歳が離れた、とはよくいうけど、今回の場合は、祖父ほども年が離れた塾の講師と関係を持ってしまう、その背景がまったく見えてこない。
 だからこそ観客は、由宇子がどう思おうが、どう信じようが、そのお腹の子の父親は、由宇子の父親じゃなさそうだと思いながら観続けることになる。最後まで観続けられたという意味では面白かったとも言えるし、観終わっても何もわからないという意味では「何だよ?これ!」とも言える。不思議な映画だった。
 もしかしたらこの映画のテーマになったかもしれないテレビの裏側については、昨年に映画化された東海テレビ制作の『さよならテレビ』が詳しくて、何なら、ドキュメンタリーなのに、ドラマという観点からも『さよならテレビ』の方がよくできている。そちらもオススメしたい。

sayonara-tv.jp

 ちなみに、森達也の映画評が『由宇子の天秤』を取り上げている。参考になるかも。

news.yahoo.co.jp