川端龍子の《竜安泉石》

 大田区立龍子記念館で《竜安泉石》を観た。
 会場を長方形として、入り口側の短辺のウィンドウケースに展示されていた。その対面側の、河童の絵のところで振り返ってみて《竜安泉石》の全体像が見えた時にハッとした。
 屏風として立て回されているのに、まるで平面のように見えた。これは画家がしかけたに違いないのだ。
 川端龍子は元々は洋画家としてフランスに留学したそうなのだが、そこで東洋画の美しさに開眼して日本画に転向した。
 その美学がよく伝わる絵なのだ。学芸員さんの解説によると、川端龍子は石庭よりもむしろ土塀に着目したという。竜安泉石の土塀は奥に行くほど低く作られているそうだ。それを敢えて遠近法を無視して描いたのも素晴らしい。
 この竜安泉石にまつわるエピソードで私が好きなのは、エリザベス女王が訪れたときに、禅僧の解説を聞いて「はぁ?」(というのは私の想像だが)「私にはわからない」と言ったそうなのだ。竜安泉石を「解説」するなんてのは禅僧のすることではなく阿呆のすることである。
 竜安泉石を描いた名画は意外にない。これは唯一かもしれない。
 これ以外にもう一点あげるとすれば、デビッド・ホックニーのフォトコラージュがある。
 YouTube学芸員さんの解説で砂を点描で描いているっていうのはちょっとクスッときた。だって、砂はふつうに描いたら点描になるに決まってるし。もちろん、スーラのような点描でないのはいうまでもないからそれはただの茶々入れだが、砂の部分だけタッチを変えているのも心にくい。スーラの点描はむしろ空間表現な訳である。それを平面の石庭にだけ用いたのに意図があるとも思える。

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 川端龍子の旧宅とアトリエである龍子公園にも行くつもりだったが、午前10時、11時、午後2時にしか入れないそうだった。