『SAYONARA AMERICA』

パンデミックは世界的オペラ

 『SAYONARA AMERICA』は『NO SMOKING』に採録された細野晴臣アメリカツアーのライブの再編集版といった面持ちなんだけれども、この2年で世間もこちらも変わってしまったせいか、熱量というかグルーブ感というかがまるで違って見えた。答え合わせのような感じで、あのときはこう思ったけど、ほんとはこうだったんだっていう味わいになっている。
 特に「北京ダック」を歌い始めた時の盛り上がりなんて、ポール・マッカートニーがニューヨークライブで「the long and winding road」を歌い始めたくらいの受け方をしていた。
 でも、はっぴいえんど解散からYMOまでのこの時代の細野晴臣の音楽が当時からこんなに知られていたはずはない。全く知られていなかったというとそれもウソになるのだが、それもずっとマニアックでディープな音楽ファンにだけ知られていたはずだ。
 YMOのファンが遡って聴いたということもあるだろうが、はっぴいえんどの「風をあつめて」がネットでバズったことがあった。竹内まりやの「プラスチックラブ」が爆発的にバズるはるかに前だけれども、どちらかと言うとそちらの流れのような気がする。
 2019年の『NO SMOKING』は、あのアメリカでのライブを細野晴臣の個人史にひもづけて映像化していた。『SAYONARA AMERICA』は、同じライブを現在の世界的状況にリンクさせて見せたといえそう。というより、振り返ってあの時のライブを見たら、それが窓になって世界が見えたというような、そんな制作者の驚きが伝わる。
 コロナ禍以降、世界がどうなっていくのかわからないものの、コロナ禍の直前、音楽はこうでしたよっていう貴重な証拠として、これが残る気がする。
 というか残った。わずか2年しか経っていないのに、同時代について私たちが如何に盲目であるか、そんなことをまったく意図していないために、より確実に音楽が知らせてくれる。

北京ダック

北京ダック


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