『ツユクサ』

 予告編にリンクしたら、この映画の公開は4月29日だ。今さらレビューを書くのも憚られる。コロナ禍以来、遠くの映画館に出かけなくなった。本厚木に映画館ができたのも大きい。このくらい遅れるんだけど、観たい映画はだいたいここまでやってくる。
 小林聡美主演映画を観るのは久しぶり。『かもめ食堂』、『めがね』、『プール』、『東京オアシス』と立て続けに観た。特に、『プール』は、ライフタイムベストに入るくらい好き。ちなみに、NHKでやってた『17歳の帝国』というドラマでやってたランタン祭りを日本で最初に紹介したのは多分『プール』だと思う。
 『かもめ食堂』、『めがね』、『プール』は三部作的に捉えられがちらしいけれども、実はそれぞれ全然違う。『かもめ食堂』は、群ようこ原作で、この人はもともと椎名誠さんの『本の雑誌』で働いていた人だったんじゃないかと思う。だから、というのも変だけれど、椎名誠の「オフ文壇」な感じ、エッセーかな、小説かな、実話かな、フィクションかな、みたいな、今よりもう少し人と人との距離感が適切で、社会が軽やかだったころの雰囲気によく合っていた。一時期は、わたしもよく読んでいたように記憶する。
 一方『プール』は、原作が桜沢エリカ、監督、脚本は大森美香なのである。原作、脚本、監督が違う映画は全く違う。だのに、これら三作が三部作みたいに言われるのは、やはり小林聡美がスターだからなのだ。小林聡美は、どの映画を見ても小林聡美でしかない。サミュエル・L・ジャクソンニコラス・ケイジと同じくスターなのだ。
 私はその後の『東京オアシス』も好きなんだけれども、これがどこかのレビューサイトで『かもめ食堂』以来のファンにけちょんけちょんに酷評されてたのを見て驚いたことがある。あまりにもひどかったのでちょっと口出しした。
 『かもめ食堂』、『めがね』、『プール』までは観光映画と思って見ればそう見えないこともなかった。それが、『東京オアシス』になると東京を出ないし、あれ?、これ違う映画だぞって気づいたんだと思う。『寅さん』を見にきたら今回の寅さんは旅に出ないじゃないか、とか、水戸黄門の映画だと聞いてきたのに、『大日本史』編纂してるじゃないか、とか、何かそんなことだったんだろう。でも、それで怒ることある?。気持ちがわからない。
 たしかにあれでちょっと鼻白んだってところはあったかもしれない。作り手側も、あの酷評は応えただろう。ともあれ何となく気分がぼやけた。
 久しぶりの小林聡美はやはり小林聡美以外の何者でもなく、順調に年を重ねていた。今回の役は、小林聡美のようなスターにやってもらうのがよかったのかもしれない。というのは、1億分の1の確率で隕石にぶつかった女性って役作りは難しそう。その意味では、小林聡美というパブリックイメージが機能したかもしれない。でも、『漁港の肉子ちゃん』で声優を務めた大竹しのぶだったらどんな風だったかなとか、安藤さくらならどんな風に演じたかなとか夢想してみるのもいいかもしれない。
 ただ、平山秀幸監督によると、小林聡美の起用は『閉鎖病棟』の時に決めたそうだ。それからもわかるように、じつはこれは10年以上温めてきた企画だった。発端はかぐや姫(フォークグループの方)の「神田川」を映画化しようとしていたそうだ。高橋恵子草刈正雄で映画化されたことがある、あれのリメイクってことなのかどうかわからないが、これは頓挫してしまった。その時の脚本家の安倍輝雄さんが代わりに出してきたシナリオだったそう。もし10年前に実現していたら、松重豊の髪はあんなに白くなかったろうから、それはそれでいいタイミングだったとも言える。
 「どこにでもある大人のおとぎ話」とキャッチコピーされているが、「どこにでもある」なら「おとぎ話」ではないわけで、10年熟成された苦味は底の方に漂っている。
 コメディとして秀逸なのは、江口のりこ桃月庵白酒の恋愛で、サーフィンする坊主は小林信彦の「オヨヨ」シリーズを思い出させた。
 俳優としての泉谷しげるを見られたのもうれしい。主題歌が中山千夏の「あなたの心に」なのはさすがに古すぎやしないかとも思ったが、古すぎて誰も知らないので新曲と同じかも。
 日本映画は予算で階級わけした映画祭があれば低予算クラスではかなりの部門を制覇すると思う。ただ、低予算映画は重箱の隅が目立つきらいはある。この映画だと後半部分が少し端折ったというか、図式的になったように思えた。主演のふたりが東京に行くあたりの行程にもう一工夫ほしかった気がする。キーになるセリフがあるのだけれど、それが少し浮いているように思ったが、どうでしたでしょうか?。


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