『NOPE』

 ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』は、同じSFでも、ダークなものが前面に出ている作品だったと思う。主役が同じダニエル・カルーヤだからそういう比較になるのだけれど、今回の『NOPE』は、ダークで悪いジョークに満ち満ちながらも、作品全体のトーンはグッと明るくなっている。
 ハリウッドの近郊で映画撮影用の馬を貸し出す牧場を、親子で経営している主人公。ある日、いつものように馬を調教していた父親が突然、落馬する。空から落ちてきたコインが眼窩深くに突き刺さったのだった。飛行機からの落下物による事故だとされた。この始まり方が秀逸だ。
 快晴の牧場で、突然、馬から落ちる父親。まさに西部劇のオープニングを思わせる。古くから映画の撮影に馬を貸し出してきたこの牧場は今は経営難に直面している。
 彼らの牧場を買い取ろうとオファーしているのが、近くで西部劇のテーマパークを営んでるアジア系のオーナー。スティーブン・ユァンが演じている。『ミナリ』、『バーニング 劇場版』のイケメンなんだけど、この人の曲者っぷりがすごい。テレビの子役出身で共演していたチンパンジーが暴れ出し、彼をのぞいた共演者全員が死傷する大事故の生き残りだ。曲者って言ったけど、奇想天外と言うべきだったかもしれない。
 奇想天外なのはシナリオの方か。『ゲット・アウト』も相当な奇想天外ぶりだったけど、今回の方がさらに突き抜けている。空から落ちてきたコインの謎が見事に解き明かされる。オリジナリティあふれるシナリオなのに西部劇のフォーマットに落とし込まれる。一方で、映画史というか、映像技術史へのオマージュでもあり、さまざまなタイプのカメラが登場してそれが重要なアイテムになっている。シナリオの完成度がすごい。
 空気でクネクネ踊る人形「スカイダンサー」っていうの、あれを使うアイデアも含めて、イメージの想像力もすごい。暗闇で驚かしてくれたり、映画の初期衝動的なアメニティパーク感にも満ち満ちている。
 シナリオがユニークではあるけれど、難解ではないので、考察とかは後回しにして、まず観て楽しむ方がお得だと思う。SF、ホラー、西部劇?。怖くて、ぶっ飛んでて、痛快。


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