荻上 直子監督といえば『かもめ食堂』と『めがね』でカルト的なファンを獲得した、作家性の強い映画を思い浮かべる。今回のポスターにも「荻上直子「かもめ食堂」」とクレジットされている。
『かもめ食堂』、『めがね』に『プール』を加えて三部作と一般に言われていると思うのだけれど、そして、私は『プール』を名作だと思っているのだけれど、『プール』の監督は大森美香だったのである。
『かもめ食堂』〜『めがね』〜『プール』と続くファンタジーの進化の仕方がすごく自然なので、私としては『プール』だけが荻上直子監督でないのが不思議でもあった。『かもめ食堂』と『プール』を比べると同じ監督とは思えないほど違うが、間に『めがね』を入れると変化のベクトルが見えてくる(気がする)。
なので、何が言いたいかと言うと、世間で言われているこの三部作の最終章の部分を荻上直子監督自身はまだ書いていない、そのことが気にかかっていた。
荻上直子をググると、その後も何本か映画を撮っていて、私がそれを見ていないだけなので、これは極めて私的な感想になるが、今回の『川っぺりムコリッタ』が『かもめ食堂』『めがね』に続く荻上直子監督としての三部作完結編だと、私には思えた。言い換えれば、『プール』に勝るとも劣らない見事な解答だと思えた。
キャスティングもすばらしい。ムロツヨシは『ヒメアノ〜ル』の時の衝撃以来の怪演だし、満島ひかりは『海辺の生と死 』の時より妖しい。緒方直人、柄本佑、吉岡秀隆、江口のりこ、笹野高史と脇役の名前を上げるだけで世界が見える感じがするほどキャラの濃いキャスト。
軽妙な群像劇の背景に沈んで見える重く暗いムード。『かもめ食堂』『めがね』『プール』の三部作と違って『川っぺりムコリッタ』は日本が舞台であることにも意味があると思う。『めがね』は日本かもしれないのだけれど、日本かどうかわからない。『川っぺりムコリッタ』は『かもめ食堂』の世界観で日本社会を捉えた見事な成果だとわたしには思えた。
『川っぺりムコリッタ』が、舞台となっている「ハイツ・ムコリッタ」ではなく「川っぺり」をタイトルにしているのも私には感慨深い。川のイメージはプールのイメージに重なる。映画『プール』の誰ひとり泳がないプールはむしろ川をイメージしていた。川は少なくとも日本人にとってははっきりと死を連想させる。『めがね』の島に海を渡ってくるもたいまさこのイメージがそのまま『プール』のプールサイドのもたいまさこにつながっているように、『川っぺりムコリッタ』の人たちは、川のこちら側で、遺骨というイコンに思いを仮託し続ける。
齋藤陽道の写真のように盛大にゴーストとフレアを映し込む、安藤広樹のカメラも美しかった。