THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦 茅ヶ崎市美術館

 新版画のコレクションと言えば、この辺では横浜美術館と町田の国際版画美術館である。茅ヶ崎市美術館のこの展覧会は、改装中の横浜美術館のコレクションを借りているのかと思ったら、そうではなくて、一点を除いてすべて株式会社渡邊木版美術画舗の所蔵だそうだ。というわけで、見たことのない絵も多くあった。
 特にこれ。

《ホノルル浪乗り》チャールズ・W・バートレット(1919)

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 このサーファーはデューク・カハナモクだそうだ。渡邊庄三郎の新版画とハワイの伝説のサーファー、デューク・カハナモクがリンクするとは思わないので驚いちゃいました。
 チャールズ・W・バートレットは、英国に帰国する途中に立ち寄ったハワイが気に入って、結局、そこで生涯を終えたそうだ。日本から英国に帰国する途中にハワイに立ち寄るって、ちょっと変な気がする。内心ハワイに憧れがあったんじゃないだろうか。
 渡邊庄三郎の新版画と言えば、上の絵ではちょっとわかりづらいが、版画をする際にわざとバレンのあとをのこす「ザラ摺り(ゴマ摺り)」が特徴的。これをよしとするか否かは好みが分かれると思うが、とにかく、このテクスチャの感じは江戸時代の浮世絵にはなかった。
 江戸時代の刷り師たちはむしろバレンの痕を残すまいとしていたはずだろう。版画としてはそれが当然で、ザラ摺りは版画というよりマックス・エルンストのやったようなフロッタージュだと思う。伊東深水の以下の絵にはザラ摺の効果がよく出ている。

伊東深水《泥上船》

 しかし、同じ伊東深水でも《髪を洗う》のような絵の場合、ザラ摺りは邪魔になっただろう。背景にあるかなきかに使われているだけである。

伊東深水《髪》

  
 その意味では、渡邊庄三郎の摺りと相性が良かったのは川瀬巴水だろう。伊東深水と同じく鏑木清方の弟子だが、27歳と当時の画家としてはおそろしく遅い入門だった。そのせいだけではないと思うが、新版画という新分野に活路を見出した。
 川瀬巴水は日本より海外で人気が高い。スティーブ・ジョブズ川瀬巴水のコレクターとして知られていた。スティーブ・ジョブズなのだから、もっとすごい絵をいくらでも買えそうなのに、美術史的な評価とは無関係な画家の絵をコレクションするところがなるほどスティーブ・ジョブズらしいのかもしれない。

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 何度も言うように山村耕花はもっと評価されてもよい気がする。あんまり個展が開かれることがない。
 織田一磨も渡邊庄三郎のところで製作していたのは知らなかった。竹橋の国立近代美術館でコレクションを見たことがある。東京の夜景に独特な味わいがある。

 展示替えがあり、後期は11月6日まで。

www.chigasaki-museum.jp