先日、『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』を観た余韻もあって、『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』を観た。
ブライアン・ウィルソンについては、ポール・ダノとジョン・キューザックがそれぞれ老若の彼を演じた『ラヴ&マーシー』という映画を観て、彼の人生のいちばんの危機については知っていたつもりだった。
鬱状態になっていたブライアン・ウィルソンを医師が支配して、彼のカネもキャリアもほしいままにしていたのだ。9年間ほとんど軟禁状態において家族と連絡も取らせなかった。
異変に気づいた、当時、カー・ディーラーで働いていたメリンダ(のちに彼の伴侶になる)が、医師のユージン・ランディとの通話を記録している。たしか「分け前が欲しければちゃんと列に並べ!」と恫喝していた。2015年の映画だが、衝撃的だったので忘れられない。今回の映画にもちょっと映像が出てくる。『ラヴ&マーシー』では役者が演じていたので、実際の顔を初めて見た。例えて言えば、トミー・リー・ジョーンズが『オセロ』のイアーゴーを演じている、みたいな顔をしていた。
検索すれば写真が見られるが、ブライアン・ウィルソンと一緒に写っている写真は、何か異常なものを感じる。医師と患者にしては近すぎる。ユージン・ランディ自身も共依存の関係に陥っていたといえるかもしれない。裁判の結果、医師免許が剥奪された。
『ラヴ&マーシー』でも最後にチラッと登場したブライアン・ウィルソン自身の、今回はロング・インタビュー。これがクルマでカリフォルニアの街をドライブしながらっていうスタイルをとっている。テレビ番組で時々見かけるスタイルではあるが、こういうスタイルでないと、成立しなかったんだろうとだんだんわかってくる。ブライアン自身まだ完全に鬱から抜け出せた訳ではなかったのだ。だからこそ医者に食い物にされることになったのだし。今でも頭の中で彼を罵倒する攻撃的な声が聞こえる、とナレーションが説明するが、時々ゆがむ口もとや、ふと泳ぐ目の表情が、観客にそれを伝えてくる。
若い頃の映像も豊富に差し込まれるのだけれども、今にして思えば、当時から表情に起伏がない。『ラヴ&マーシー』ではポール・ダノが見事に演じていたけれど、実際のの彼の映像はむしろ『レインマン』のダスティン・ホフマンを思い出させる。
インタビューに基づくドキュメンタリー映画なんだけれど、ドライブしながらということもあって、それこそ『レインマン』のようにロードムービーの味わい。狙って作ったのだとしたら大したもんだと思う。
ジャック・ライリーの死を知ったブライアン・ウィルソンが動揺するシーンがあるが、弟のカールやデニスより結局、彼の方が長生きしたことはどこか皮肉でもある。
『レインマン』と言ったけれど、それよりも先に、最近に観た映画でもうひとつ思い出していたのは、『クラム』でのロバート・クラムの兄チャールズだった。チャールズは、子供の頃、ロバートと同じように漫画を描いていたのだが、無関心な父、過干渉な母、そして学校でのいじめがもとで引きこもり、映画の撮影のあとほどなくして自殺してしまった。
ブライアン・ウィルソンの父親も威圧的だった。どんなドキュメンタリー映画でも、父親が威圧的でしたと言っても、ナレーションでおわりだが、何しろビーチボーイズの父親なので動画で残っている。この父親の抑圧がブライアンの生涯を貫いたとさえ見える。ひどく現代的でまたアメリカ的でもある。
マーティン・スコセッシが撮ったローリングストーンズのライブ『シャイン・ア・ライト』とはまた別の違う感動がある。ミック・ジャガーとほとんど同い年なのに、肉体の差にはたしかに驚いてしまうが。ブライアンのライブの客の中には涙ぐんでいる人もいた。
メランコリーとは言えないだろう。ブライアン・ウィルソンの最近のライブでは『ペット・サウンズ』を全曲生演奏するなんていう離れ技をやっているそうなのだ。あの人のどこにそんなエネルギーが潜んでいるのか驚いてしまう。コブサラダを食べようと言って入ったカフェで、でかいパフェを食ってるんだけど。
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