『怪物』『波紋』ネタバレ

 今、『波紋』と『怪物』を立て続けに観たけれど、どちらもすばらしい。おそらく、今年のベスト級の2本。
 荻上直子監督は前作の『川っぺりムコリッタ』からさらに幹が太った感じがする。蔓草が樹木になった感じ。木質化と言って、本来なら木ではない植物が木のようになる、そんな感じ。あの『かもめ食堂』の作家がこういう風になるんだっていう感動は特別。巨匠の誕生を目撃する感じ。
 
 『怪物』は、現在の日本映画の叡智が集結した感がある。脚本・坂元裕二と監督・是枝裕和を結んだのは、プロデュース・川村元気らしい。そして、音楽はさきほど亡くなられた坂本龍一
 坂元裕二はこの作品で世界にバレて、いきなりカンヌで脚本賞を受賞した。
 キャストも坂元裕二ラインと是枝裕和ラインが混ざり合って良い感じ。野呂佳代とか東京03の角田さんをカンヌ作品で見ることになろうとは。
 是枝裕和監督は、『空気人形』とか『海街diary』とか、まったくのオリジナルでないときの方が軽やかになる感じ。ましてや今回は脚本も他人に委ねたわけで。演出家としての是枝裕和の力量を改めて認識させられる。やっぱり子どもたちの演出に関しては、是枝裕和の右に出る人はいない。

 偶然なんだけれども、両作品とも、ラストシーンの映画的な、言い換えると、現実から少しだけずらした表現が美しい。
 『怪物』の方はそれに坂本龍一の音楽が重なる。『怪物』の予告編は本編を全然予告してない気がするんだけど、確かに、脚本が巧みすぎるので、ああやって部分的に切ってしまうと決定的な何かが失われる。ただ、映像は切ってまた繋げられたとしても音楽はそれに付き合ってくれない。坂本龍一の音楽が乗る本編では、予告編のシーンもまったく別物に見える。

 『波紋』は、これが海外の映画祭に出品されてなくて、海外の人が見られないのを残念に思う。新興宗教の胡散臭さが海外では伝わらないのかも。海外の人はとまどうのかもしれない。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でも母親がハマるのはキリスト教だし、同じ筒井真理子主演でも、深田晃司監督の『淵に立つ』はモチーフがキリスト教なので受け入れやすいのかも。
 でも、あの部分は『めがね』あたりから荻上直子監督がずっと待ち続けてる味なんだし。もし、アメリカ人に説明するなら『アメリカン・ビューティー』の奥さんがハマってる自己啓発セミナーみたいなのの日本版だと思ってもらえれば大体間違いないかと。
 いや違うかな。主人公の息子(磯村勇斗)の聾の彼女(津田絵理奈)のシーンからも分かる通り、本質的に暴力なんだろうな。創価学会靖国が何なのかと言えば、つまるところ数の暴力でしかない。『反キリスト』でニーチェが「悪とは弱さ」と書いたように、宗教ってつまり弱者の暴力だからな。
 カネの流れだけ見れば宗教団体と暴力団は全く同じ。原理で構成員を縛る構造も同じ。その見返りに構成員は力を得る。宗教は強力な武器になると最初から割り切ってるのが靖国創価学会な訳で、そりゃ裏で統一教会と組むのも平気でしょうよ。
 その意味ではこの『波紋』は、筒井真理子安藤玉恵の始まりから、ずっと女の戦いを描いている。ここまではっきり対立を描いた映画は荻上直子監督にとっては新しい試みだったと思うし、見事に成功していると思う。
 それでいてコメディとして『かもめ食堂』や『めがね』の時よりずっと鋭くなってるのもすごい。笑いが痛烈。
 

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