『ファースト・カウ』『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

 この2つの映画はつまり「ファースト・カウ」と「レイテスト・カウ」。
 アメリカ人(にかぎらず、だろうが)は、ずっと貧しさから抜け出そうともがいてきたって話なんだけど、「ファースト・カウ」のWEBには「おいしい話にご用心」とキャッチコピーがあってがっかりくる。この話のどこが「おいしい」?。中国系のキング・ルーなんて文字通り裸一貫で逃げてきてるんだし。
 キング・ルーにだけついて言えば、彼を破滅に導いたのは、彼の欲望だったか、彼の優しさだったか議論の分かれるところだろう。金を持ち逃げしようと思えばできたのに、結局、クッキーを待った。多分、裏切るって選択は、この人にはハナからない。そもそもの最初が友人の仇を撃ち殺して逃げてきたんだし。徹底的に男性原理を信じて生きている。仁義に殉じているともいえる。
 でも、この監督の描きたかったのは河なんじゃないかと思った。冒頭に映される河は何の説明もなくても現代の河だとわかる。むしろ、西部開拓時代の河のあのロケーションはどこから探してきたのか知りたい。
 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンが出てるのも嬉しい。この映画の方が先なんだと思う。
 『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、ほぼ実話らしい。原作はベン・メズリックの『The Antisocial Network』(2021)でまだ邦訳されていない。ちなみにベン・メズリックは映画『ソーシャル・ネットワーク』の原作『facebook 世界最大のSNSビル・ゲイツに迫る男』を書いた人。
 監督のクレイグ・ギレスピーは『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を撮った人でもある。
 WEBサイトの監督メッセージには
「この題材について確実に言えること。それは、もし私が当時24歳の息子と一緒に暮らしていなかったら、私のレーダーに引っかかっていなかったということです。
 ゲームストップ騒動は、単なる株取引の話ではありません。当時は、この国における新型コロナ、孤立感、社会不安が深刻な問題になっていました。そこに現れたのが “ローリング・キティ”です。
 息子は早い段階でゲームストップ株へ投資していたので、私は息子を通して、ゲームストップの物語のスリルや興奮、フラストレーションや恐怖を味わえました。そのおかげで、作品を監督する際にはいつも出発点としている、感情のレベル、人間的なレベルでこの作品に取り組むことができました。」
 コロナ禍の孤立感が背景にある中で、WallStreetBetsという掲示板型ウェブサイト、レディット内のフォーラムで繋がった人たちが、世界の富を独占する1%のヘッジファンドに一泡を吹かせる。大逆転とはいかないけれど痛快。
 こういうことが日本では起こりにくいと思ってしまうのが本当のところなんじゃないか。陰謀論の拡散はアメリカ並みに起こるのに、こういう前向きな個人の連帯はなかなか起こらない。日本人は個人と個人の結びつきが起こりにくい。他人を信用しないからこその礼儀正しさが日本人の根底にある気がする。迷惑をかけないことが日本人の信条ではないか。他人に迷惑をかけられることが社会の本質と刷り込まれているキリスト教社会の美点をここには感じる。
 日本にもそもそもは喜捨の思想があり、それが福祉を支えていたのだけれど、日本の近代化は同時に欧米化であったので、近代化の根底に宗教の否定がある。日本社会は日本人自身の評価とは違い、むしろ、欧米よりはるかに個人的で社会性が欠落している。その分、個人の行儀よさに頼って社会秩序が保たれていると言える。
 聞くところによると、この映画は、一ヶ月そこそこで撮られたそうだ。スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ』が50日で撮了したと話題になったが、こういう反射神経の良さ、速報性にも、アメリカの心意気を感じる。


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