『ノー・アザー・ランド』が第97回アメリカアカデミー賞で、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。
これについて半ばは驚いたのは、もう15年も前の第81回米アカデミー賞にて、『おくりびと』が外国語映画賞を獲得した後のインタビューで、主演の本木雅弘が
「実はイスラエルの作品(アリ・フォルマン監督『戦場でワルツを』)を見て、とても素晴らしいと思ったので、そちらが獲ると思っていた。」
と、今から考えてみるとかなり迂闊な発言をしているが、実際のところ、当時の当地の空気としては『戦場でワルツを』がガチガチの本命だったらしい。テレビカメラも『戦場でワルツを』のテーブルにスタンバッていたらしい。
『おくりびと』に何の恨みもないものの、なるほどと思ったのは、『戦場でワルツを』が「サブラ・シャティーラの虐殺」と言われるパレスチナ難民の大虐殺事件を描いた映画だったからだ。監督はそのとき兵士としてその現場にいたイスラエル人だったのだ。
改革前のアカデミー賞がユダヤ人に支配されていたのは秘密でも何でもない。が、イスラエル代表としてアカデミー賞に送られてきたイスラエルの映画であっても、ユダヤ人としてこれは受け入れ難いのだという、実のところ、そりゃそうだろうと内心思っていたその事実を、このことで私たちは再確認していたわけだった。
『ノー・アザー・ランド』は大虐殺ではないものの、イスラエル兵が一般人を1人2人撃ち殺してる映像が映し出されている。ハリウッドの村祭りと言われるアカデミー賞で、その村人のほとんどがユダヤ人な訳だから、15年前と同じく、今回も受賞しないだろうと思っていた。
なので、伊藤詩織のドキュメンタリーが受賞する可能性もあるのではないかと思っていた。もしくは、クリストファー・リーブか。だが、『ノー・アザー・ランド』が受賞した。15年前ならあり得なかったことには違いない。
だが、これがどんな実効性を持つのかは甚だ疑わしい。「ほら、どんどん動画アップしろよ」と笑っていた入植者たちと同じように、古株のアカデミー会員たちもニタニタ笑っているのかもしれない。