『エリック・クラプトン/ロックダウン・セッション』

 『エリック・クラプトン/ロックダウン・セッション』は、タイトルが示すとおり、このコロナの閉塞状況下で試みられたライブのひとつ。日本でいえば星野源の「Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”」とか山下達郎の『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』なんだと思う。
 ただ、配信という形は取らなかったみたいだ。ドラムス、スティーブ・ガット、ベース、ネイザン・イースト、キーボード、クリス・ステイントンという小編成で、何日かカントリーハウスに篭ってライブを映像化した。
 個人的には、映画館で観られるように映像化してもらった方が観やすい。というのは、配信では音の質に限界がある。今回観たイオンシネマ海老名のスクリーン7はTHXで音がよい。
 山下達郎の方は映画館で別のライブ映像が見られたが、星野源の方も映画館で観られるようにしてもらえたら嬉しい。配信はプラットフォームに差がありすぎる。たとえYouTubeはすんなり観られる時でも、TV erはよく止まる。映画館には少なくともそういうストレスはない。
 クラプトン自身は『アンプラグド』をイメージしていたらしい。狭い室内だし、ずっと椅子に腰かけて、ギターも生ギターの比率が高い。スティーブ・ガッドもほぼドラムスティックは使わなかった。ベースは主にウッドベース。キーボードはヤマハのCP-1とMOTIF XS6を使っていた。


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 この映像は11月12日、Blu-rayなどのメディアでも発売されるが、映画では一部別編集、および、15分の特別映像が含まれているそうだ。

『ONODA 一万夜を越えて』

 おそらくわたしが今年観た中でいちばんの名作だと思います。
 予備情報なしで観たので、観終わるまでどこで誰が撮ったのかさえ分からなかった。
Arthur Harariっていう監督が何人なのかも分からなかった。もしかしたらルバング島の人なのかなと思ったくらいです。
 それくらい嘘がないように思えた。『MINAMATA』でアメリカ映画がここまで日本人を映画にできるようになったことに驚いたばかりなのに、この映画はそれを超えてきた。
 おそらくこれはアメリカでは実現不可能だと思いました。アメリカでは、戦争を、特に第二次世界大戦を、こんなふうに対象化できないのではないかっていう不信感、というか、みくびりたい気分は持っちゃいますね。
 というのは「アメリカをふたたび偉大に」とか言うスローガンがリアリティを持ってしまう国ですから。小野田寛郎が軍人であることが、かの国ではバイアスになってしまうと思います。
 そしてこの映画を観て感じたことなんですが、日米関係ってやっぱりなんかいびつですね。たぶんアメリカ人は小野田寛郎の存在を日米関係の構図にうまく落としこめないと思います。
 この映画は、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、日本による国際共同製作作品だそうです。監督はアーサー・ハラリではなく、アルチュール・アラリというフランス人監督。脚本もこの人。そして、撮影監督は実兄のトム・アラリだそうで、小野田寛郎の青年期を演じた遠藤雄弥によると、カンボジアのジャングルの中で映画さながらの兄弟げんかを始めることもあったそうだ。

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 実際、撮影はキャスト、スタッフ共同の冒険だったろうと想像できる。インターネット以前の世界は、今や国籍の差をはるかに超える跳躍だと思われる。
 第74回カンヌ国際映画祭2021 「ある視点」部門のオープニング作品として上映されたときには、小野田と小塚がジャングルで国際情勢を分析するシーンで笑いが起きていたそうだが、日本人があれを笑えるかどうか。たしかに、可笑しいのはわかるのだけれども、同時に、どうしようもなくいたたまれない。
 どう終えるつもりか、その見通しもなく始めた戦争の滑稽さは、同時にまた、今の私たちにまで負わされている途方もない悲惨さとなったことを、日本人は知っているからで。
 そして、画面から伝わる感じとして、現地のスタッフとキャストは、はたからは狂気と滑稽のはざまにしか見えない小野田たちの行動を、少なくともその現場では共有していたと見える。
 だからこそあの場面は笑えると思うのだ。『リング』の中田秀夫監督によると、撮影現場で笑いが起こるような場面ほど出来上がりを観たとき怖いのだそうだから。
 
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 上のインタビューで、この映画の小野田さんは、日本兵らしくないから日本人らしいのだというパラドクスに気づいてしまう。よく考えると、日本兵らしさっていうステレオタイプに、私たちは長く飼い慣らされてきたものだった。おそらく、当時の日本兵たちですら、日本兵らしさに囚われていたに違いないけれども、彼ら自身がそう囚われているステレオタイプほどに、彼ら自身が日本兵らしかったかどうかは疑ってみてもよかった。
 壮年の小野田さんを演じた津田寛治によると、撮影を通じて「どんどんナチュラルになっていった」そうなのだ。アラリ監督が俳優でもあるのが大きかったのかもしれない。アラリ自身の脚本だが、出来上がりは台本と違っていたと、津田寛治は語っている。
 『ONODA』も『MINAMATA』も日本人の手で撮れなかったかなという悔しさはあるが、日本にも、たとえば『菊とギロチン』の瀬々敬久監督や『日本のいちばん長い日』の原田眞人監督がいますから。
 ちなみに、仲野太賀の演じた鈴木紀夫青年の、映画にはないサイドストーリーも面白い。小野田寛郎さんを発見した後、鈴木紀夫さんはほんとに雪男も発見する。70年代のそんな青年に仲野太賀とSONYのラジオがよく似合った。
 当時の資料に当たってビジュアルは徹底的に忠実に再現しているそうです。そう聞いて検索してみましたが鈴木紀夫さんの撮った写真がいちばんよいように思いました。


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キングオブコント2021の感想戦さまざま

 今年のキングオブコントが素晴らしくなる予感はしていた。
 今年からユニット参戦が可能になって、チョコレートプラネットとシソンヌとか、片桐仁青木さやかとか、果ては、間寛平村上ショージまで、花も実もあるユニットが、決勝まで届かずバタバタ敗退した。
 だけでなく、ロッチとか霜降り明星とか名実ともに認める実力者すら準決勝で敗退した、だけでなく、その一方では、そいつどいつとか男性ブランコみたいな渋いメンバーが決勝に進んだ。
 今年の決勝10組は決勝に残っただけでもすごかったと思うし、結果も期待を裏切らないものだった。
 マジカルラブリー野田さんの分析が鋭かった。ロッチコカドさんのニッポンの社長のコントの分析も面白かった。かもめんたるのう大さんの評も面白かったので、リンクしておきます。
 それから、ゆうきロックさんの、空気階段の歴代最高得点は、その前のザ・マミィのネタの相乗効果も大きかったのではないかって指摘もなるほどと思った。これも紹介しておきます。

 ラジオでは空気階段の踊り場が、優勝記念生放送でやっていた。まだradikoで聴けます。


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『モンタナの目撃者』『レミニセンス』『クーリエ』

 もし『MINAMATA』をまだ観てないなら『MINAMATA』をオススメする。
 それ以外で最近見た映画でオススメできるものというと、まず、『モンタナの目撃者』。
 アンジェリーナ・ジョリー?。って一瞬思うじゃないですか?。スターで客引きしようとしてるのかなと。『SALT』とか、もういいから。
 でも、宇多丸さんのレビューを聞いてたら、経緯はそうじゃないそうで、監督が降板して宙に浮いてた企画を、『ウインド・リバー』のテイラー・シェリダンに監督にオファーしたら「アンジェリーナ・ジョリーが出るなら」とふっかけられたらしい。
 というわけで、アンジェリーナ・ジョリーも『ボーダーライン』のエミリー・ブラントみたくハードボイルドで骨太な仕上がりになっている。
 しかも、いちばんアクション・ヒーロー的な活躍をするのが、アンジェリーナ・ジョリーではなく、メディーナ・センゴアっていう、失礼ながら、あんまり聞いたことない黒人女性なのがカッコいい。
 山火事を扱った映画では『やすらぎの森』、『ワイルドライフ』もよかった。アメリカでの山火事はけっこう日常的になってるのかも。ドキュメンタリーの『ビッグ・リトル・ファーム』でも、サイドストーリーとまで言えない重要さで山火事が入り込んできていた。

 『レミニセンス』は、ヒュー・ジャックマン主演の近未来SF。つうことになると、ウルヴァリンみたいな活劇が頭に浮かぶじゃないですか?。でも、これもいい意味で期待を裏切ってくれる。
 温暖化の海面上昇で水没しつつあるL.A.が舞台で、その水面が、フィルム・ノアールの濡れたアスファルトを思い起こさせる。
 ヒュー・ジャックマンの役どころも退役軍人で、戦争中に開発された、捕虜の記憶に潜入する装置を、今は、顧客に過去の思い出を追体験できるサービスに使って生計を立てている。
 フィルム・ノアールでは、追想シーンとして描かれていたものが、この映画では、この装置で映し出されるホログラムに代わるだけかと思いきや、この仕掛けならではの心にくい演出が謎解きに使われるのは、さすがだなと思った。
 この映画でも、いちばん強いのはタンディー・ニュートン演じる相棒の方で、ヒュー・ジャックマンは、けっこう情けなくファムファタルに翻弄されていく。

 『クーリエ』の表題“courier”はどうも「運び屋」という意味らしい。 
 キューバ危機の時代、東西のスパイ戦に巻き込まれた実在のイギリス人男性を、ベネディクト・カンバーバッチが演じている。
 スパイ映画ってやっぱり東西冷戦時代を舞台にしないとしまらない。
 というのは、今はネットで何でもできるんじゃないの?っていう思い込みがあるし、それと、東西の両方に、冷戦がホットな戦争になったら世界が破滅だという意識があった。冷戦だからこそスパイに存在感があった。CIAもイランコントラ事件以来むしろ滑稽なイメージ。『バリー・シール』とか。
 キューバ危機というだけで背景の説明は要らない。実話を基にしている重みがある。


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国宝 福岡一文字吉房

 コロナ禍以前は、上野の美術館に行くときは、美術館のはしごをするのが当たり前だった。5つも美術館があるのだし、国立西洋美術館東博は、土曜日には午後9時まで開いていたし、常設展は撮影可なのだし。
 今は、事前に時間指定しなければならないので、そういうことが難しくなっている。しかし、今回は、ゴッホ展の後に、久しぶりに東博の常設展を訪ねた。
 というのは、以前、YouTubeにアップした「国宝 福岡一文字吉房 岡田切り」の映像が間違ってたらしい。もともと、はてなfotolifeのサービスが動画に対応しなくなったので、仕方なくYouTubeにあげただけだった。
 刀剣のイメージが動画になってしまうのは、やってみればわかるが、細長い形状が静止画のフォーマットに向かないからだ。
 ただここで問題なのは、動画と静止画で保存するカメラのフォルダーが違うので、動画と動画の情報を写した静止画の対応が難しく、それで、以前アップした「福岡一文字吉房」が間違ってたみたい。
 もう少し詳しく言うと、「福岡一文字吉房 岡田切り」の名で2つの異なる動画を上げちゃったみたい。
 それで、これはいつか確認して訂正しなきゃなあと気にしてはいた。今回、東博のウェブサイトの出品目録に「福岡一文字吉房」を見つけたのでいいタイミングだと思ったのだけれど。


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ご覧のように、「福岡一文字吉房」ではあるけれど、「岡田切り」ではなかった。ただ、太刀であるには違いなく、推測だけれど、太刀は反りが強いので刃を下向きに展示してあるのかなと。だとすれば、下の動画が正しい「岡田切り」なのかなと思います。


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