この9月4日、5日にエド・シーランがニューヨーク市郊外のMetLife Stadiumで公演した。この時、サポート・アクトとして出演したラッパーのマックルモアが「パレスチナに自由を」と叫び、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の人々への連帯を表明した。
サポートアクトは前座(opening act)というには存在が大きいアーティストたちにリスペクトを込めた言葉で、前座に比べて演奏時間も長い。マックルモアはグラミー賞の受賞歴もある。
ところが、エド・シーランのプロモーターMessina Touring Groupは、その後の全米ツアーを予定していた会場のオーナーたちから、マックルモアがラインナップに入っている場合はコンサートの開催を認めないと通告された。
Gillette Stadiumのオーナーである億万長者ロバート・クラフトがシーランに圧力をかけてマックルモアを排除したそうで、これについてはエド・シーラン、マックルモア、ロバート・クラフト全員が認めている。
エド・シーランはマックルモアに事情を伝えたが、結局、マックルモア抜きでツアーを続ける決断をした。
エド・シーランのこの決断は微妙なところ。難じるべきかどうかわからない。あくまでもサポートアクトだし、チケットを買ったファンは待ってるだろうし、エド・シーラン自身も何ヶ月も準備してきたことだろうし。
エド・シーラン自身はこう言っている。一部抜粋。
「私のショーに来る人たちは、政治的なプラットフォームを期待しているわけではない。マックルモアが自分の信じることを声高に主張する強い意志には敬意を表する」
「しかし、平和という同じ目的を達成するために、複数のアプローチが存在する余地はある」
全部は下に貼ってあるBBCのサイトで確認して欲しい。
エド・シーランのようなあまり政治色を感じさせないポップスターの公演にもパレスチナ問題が影を落とす時代になったことが感慨深い。
マックルモアは、ガザ地区の惨状を伝える映像を映し出し、コロンビア大学で建物を占拠し、イスラエル軍に殺害された6歳の少女ヒンド・ラジャブ(Hind Rajab)にちなんでその建物を命名した親パレスチナのデモ参加者について歌ったプロテストソング「HIND'S HALL」も披露したそうだ。
あの『ヒンド・ラジャブの声』のあの少女のことを歌って「パレスチナに自由を」って叫ぶのが反ユダヤ主義か?。
映画『ヒンド・ラジャブの声』も米国では大手配給会社が軒並み拒絶して全米に配給されなかったことを思えばなおさらではないかと思う。マックルモアのこの程度のごく穏健なパフォーマンスを、会場のオーナーが抹殺するのは表現の自由に対する挑戦に違いない。
ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズはこの件を受けて、エド・シーランを「little prick」と呼んだそうだ。また、その後、ツアーに参加していたすべてのサポートアクトのメンバーが離脱を表明した。
1964年のアメリカツアーで、ビートルズが人種隔離された観客の前で演奏することを拒否し、会場側に席の隔離を撤回させたことがあった。ジョン・レノンは当時、「人種隔離された観客の前では絶対に演奏しないし、今更始めるつもりもない。出演料を失った方がマシだ」と言い切った。マネージャーのブライアン・エプスタインは、このジャクソンビルでの騒動以降、米国のすべての出演契約書に「アーティストは人種隔離された観客の前での演奏を義務付けられない」という公式な条項を明記させた。
1964年といえばジョン・レノンはまだ23歳だった。それから62年が経った今振り返れば、目の前の観客を喜ばすことも大事だけれども、やっぱりビートルズはかっこよかったよなと思われる方がいいんじゃないか。ビートルズは結局どっちもやったんだけど。
エド・シーランは親イスラエルの側からも叩かれてるみたい。エド・シーランのAI生成画像を作ってアップしているボーイ・ジョージは論外だが、ピンクは、マックルモアが「反イスラエルプロパガンダを広めていると非難し、ユダヤ人のファンは謝罪と返金を受ける権利がある」と主張するStopAntisemitismの投稿をリポストして炎上した。
後日に声明を出して
「私はこれまで他のアーティストの発言を封じるよう求めたことはありませんし、今も求めていません。誰かを解雇してほしいとも、返金してほしいとも思っていません。」
と語っているが、かなり無理がある。ともかく前言を撤回したということになると思う。
こういう公衆の面前で、金の力で言論弾圧することに躊躇しない親イスラエルのユダヤ団体に対して、ユダヤ人の側からマックルモアを擁護する声も上がっている。ユダヤ人の平和への声など。しかし、ユダヤコミュニティの中では不当解雇の憂き目にあったりしているらしい。
結果的にこういう騒動がある中でも、ツアーを続けることに意味があったかもしれない。サポート・アクトが一人もいない無音のステージの後にエド・シーランのパフォーマンスが始まるならそりゃそれで伝説かも。
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