奈緒、伊藤蒼。
少なくとも、観てよかったと思える映画なのは間違いない。
その上で疑問点を書くのだけれど、テーマに対してセリフがウエルメイドすぎるように感じた。「演劇的」と評しているサイトもあったがそれも同じ意味なのかもしれない。セリフのやりとりが都合よすぎるように感じた。
セリフに生々しさがなく背後に本を感じる。それは一方では良いことかもしれなくて、だとしたら、書かれたセリフに魅力がないのかもしれない。
最初の対話シーン、渡来映子(奈緒)と山﨑寛之(前原滉)のケースで、大声の罵り合いは興醒め。死んだ鹿島亜佐美(伊藤蒼)と不倫関係だった上司の山﨑と、その勤める会社の社内で話してるのに、あんな大声はリアリティないわ。芝居だな、演出だなと思っちゃう。
会話の最中に背景が変わって、亜佐美がパソコンの壁紙に使っていた夜の野原になる。映像の方でそういう象徴的で非現実的な演出をするなら芝居の方はリアルでないと醒める。
特に、山﨑はひとり目だから導入としてもまだ観客に先を読ませない方が良かったと思うけど。あれだと「ああ、こっちね」と観客がレッテルを貼ってしまう。変な演出だったなあ。
「亜佐美のことが知りたいだけ、亜佐美の友達じゃないです」って映子が、その後、亜佐美の高校時代の先輩(高橋ひかる)、DV彼氏(草川拓弥)と訪ねて回る。
友達でもないのに亜佐美の知り合いを訪ねて回る映子はそうとう変じゃないですか?。それに応対する側はフツーじゃないと映画自体が全編的に変になっちゃう。
シナリオに書かれたセリフの段階から、3人が映子に合わせてくれてるみたいな感じで、会話が不自然。DV彼氏がいちばんフツーに見えたけど、DV彼氏である時点でフツーじゃないわけだからたまたまハマっただけで、この3つの会話がもっと魅力的だったら、この後のトリッキーな展開にもっと驚けたと思う。
不倫相手が死んだ、後輩が死んだ、カノジョが死んだって時に、なんか知らん女が訪ねてきて、つかぬこと、込み入ったことを根掘り葉掘り聞いてくる、この状況は笑えるところだったのに、笑いどころを逃しちゃう監督は多いみたいね。ここはコメディ要素を入れといたら、後で効いたのに残念だなぁ。
で、映子はとうとう警察にまで踏み込んじゃう。「あんた何なの?」ってなりますわな。「いや、犯人っす、テヘ」とは言わなかったけど捕まっちゃう。笑いを入れてないんで、この前半と後半のコントラストがうまく出てない。
だって、前半は刑事コロンボふうなわけ。でも、実は、関係者を問い詰めてたのが犯人だったって衝撃。になるはずが、前半から変すぎて「ああそうか」くらいにしかならない。
笑いを入れときゃなぁ。映子が一見コメディを装いながら犯人を追い詰めるんだろうなってワクワクするじゃない?。それが笑いがないために、ただただ変なんで、「こいつが犯人かい?!」って最高のオチにフリが効いてない。
後半は接見する弁護士(平原テツ)と映子の会話から、映子と亜佐美の対決がひもとかれてゆく。
映子と亜佐美の価値観の対立は、観念的ではあるけれども、映画が観念的であってならない理由はない。問題はその観念をどうやって肉体に宿すか。そう考えると、やっぱり『急に具合が悪くなる』の濱口竜介の仕事は改めてすごいと思わされる。
映子を見ていると頭の中に浮かぶのは疎外という言葉。しかし、亜佐美がどうだったかは実に難しい。亜佐美が肉体を持った生身の人間として描けるかどうかは難しい。
亜佐美が恐怖や痛みを感じる生身の人間だと感じられる何かがないと映子の殺人に至る心理に切実さがなくなる。
最初、弁護士が想定していたように、実はこれは自殺幇助ではないのかと考える方が幾らかわかりやすいが、それだとこの映画の存在意義そのものがなくなる。ただ、そうじゃないのか?って観客を揺さぶる仕掛けはほしかった。
最終的に弁護士も認めざる得なかったように、これはやはり殺人だったとわかる。が、では、これがどのような殺人だったのかは観客に委ねられている。
個人的に考えるに、映子は深層では常に死の欲動に囚われていたと思われる。世間から見ればこれ以上ないほど不幸な状況にありながら、自分は幸福だと信じ込んでいる亜佐美を前にして、そういう死の願望が表出したと見えた。
なぜなら亜佐美の幸福感は映子の目から見れば完全な幻想だから、この幻想が一皮めくれて、亜佐美が現実の不幸に落ち込む想像に耐えられなかった。今、自分が生きているのっぺりとした現実の世界にこの幻想から亜佐美が、今にも落ちてくる不安に誰が耐えられただろう。
と同時に、一方では、このありきたりな不幸な現実世界に、たとえ幻想であったとしても、一瞬でも幸福がありうると想像するのが怖かった。亜佐美が怖かった。うごめく異物のように怖かった。
だからこそ映子は、殺人の後で亜佐美とは何者だったのか尋ねて歩かざるえなかった。しかし、映子に残されていたのは、ほとんど見知らぬ誰かを殺したという事実だけ。またありきたりな不幸がひとつ重なっただけだとすれば、映子はまた住み慣れた世界に戻ったと言えるだろう。
だが、ほんとか?。ほんとに戻ったかは映画の結末ではわからない。
shinebaiinoni-movie.com
ついでもあるので「芸術と疎外」って吉本隆明の口述筆記のリンクを貼っておきます。












