映画

『ウクライナから平和を叫ぶ』

2015年にウクライナとロシアの紛争地域を取材したドキュメンタリー。 予告編にもあるのだけれど、親ロ派のおばあさんが、ウクライナ兵がハーケンクロイツをつけてナチス風の敬礼をしていたなどとカメラの前で語る。もちろん、全ての証言の真偽を確かめる術は…

『LOVE LIFE』

深田晃司監督はとにかく『淵に立つ』がmasterpieceに間違いなく、観てない人は是非観てほしい。信頼できる作家だとわかるはずだ。 ニーチェの「反キリスト者」にも見られるようなキリスト教批判を、頭の片隅に置いていないキリスト教徒は狂信家と言っていい…

『この子は邪悪』

低予算だけれども、奇想天外ではこちらも『NOPE』に負けてない。ネタバレの書きにくさではこちらの方が上かも。というのは、あらすじだけ言うと「んなバカな!」感がこっちの方が強い。ところが、映画で観ると「あるかも」と思わされてしまう。 監督、脚本の…

『私は最悪』

この映画は 私は最悪ここから始まる。大学に入って辞めて、みたいなところから始めないのはさすがだと思った。 パートナーの新刊披露パーティーで所在なげにしているこの女性が主人公なのであって、この女性のクロニクルではない。幾多の名作と同じく、いき…

『荒野に希望の灯をともす』

中村哲医師のドキュメンタリー映画、劇場版『荒野に希望の灯をともす』が、あつぎのえいがかんkikiにて9月2日まで上映中なので、見逃した方は是非ご覧になってください。 「強い」という言葉の意味を突き詰めていくと中村哲医師のような生き方に辿り着くよう…

『FLEE』

『FLEE』は、デンマークのアニメ映画でしかもドキュメンタリーである。 この映画がドキュメンタリーをアニメで撮った理由は、主人公であるアフガニスタン難民の男性の顔を晒さないためなので、本人が特定されないシーンなどは実写が混じることもある。こうい…

『長崎の郵便配達』

『長崎の郵便配達』は、同じく第二次世界大戦を扱ったドキュメンタリーでも、昨日の『ファイナル・アカウント』とはかなり違う。元英空軍パイロットと長崎の被爆者の交流が軸になっているために、憎しみの感情が入りこんでいない。 もちろん、チャーチルは米…

『ファイナル・アカウント』 ネタバレあり〼

これは2020年のドキュメンタリーであり、つまりもうホロコーストの当事者たち、それは、被害者、加害者ともに、その当事者であった人たちの直の証言を得るのは難しい時代になりつつある。 今回のこの映画でインタビューを受けている人たちは、ヒトラーユーゲ…

『ベルイマン島にて』

イングマール・ベルイマンが暮らしたフォーレ島に、映画作家のカップルがひと夏を過ごしに来た。 ティム・ロスの演じる映画作家の方が、自身の映画の上映とトークショーに招かれた、そのついでに、ベルイマンの過ごした島で、お互い、書きかけの脚本を仕上げ…

『メタモルフォーゼの縁側』

『ベイビー・ブローカー』を紹介したGCの記事に、「アメリカ映画はビジネス、ヨーロッパ映画は文化、韓国映画は国策、日本映画は趣味」という、誰が言ったか知らないアフォリズムがあった。日本映画の規模の小ささを揶揄しているのだろうが、しかし、趣味…

『ベイビー・ブローカー』ネタバレあり

是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』の何にいちばん驚いたかといえば、ソン・ガンホ演じる主人公の結末である。 ところで、最近はこうしたブログなどでもあまりネタバレを気にしなくなっているそうだ。というのは、ネタバレを含む考察を頭に入れてから観…

『ベイビー・ブローカー』

『真実』が是枝裕和Xカトリーヌ・ドヌーヴだとしたら、今回は是枝裕和Xソン・ガンホということになるだろう。フランスに比べれば、韓国の方が文化の面でも言葉の面でも越えなければならない壁は低かったろうとはおもうけれど、母語文化圏の外で創造性を失わ…

『私だけ聴こえる』

この週末に観た映画は3本とも素晴らしかった。まずは『私だけ聴こえる』。 今年、米アカデミー賞を席巻した『CODA』の、この映画は実際のCODA(child of deaf adults)に取材したドキュメンタリー。ポスターに使われているきれいな女性はナイラさんという『…

『死刑にいたる病』

『凶悪』で一躍スターダムにのしあがった白石和彌監督なんだけど、個人的にはあれ以来、ちょっとピンとくる作品がなかった。『日本で一番悪い奴ら』は世間では評価が高かったんだけど、あの男子校的なノリが空回りとしか私には見えなくて、綾野剛が一流の柔…

『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版」

この映画はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。日本で公開されているのはラドゥ・ジューデ監督による自己検閲版だけれども、垣間見るところ、あけすけなセックスシーンが満載みたい。 ストーリーはシンプル。主人公の女教師のプライベートなセックス…

『流浪の月』に見る弱者論

ジョニー・デップとアンバー・ハードの泥沼の訴訟合戦が続いている。 真実がどちらにあるのか知らないが、にもかかわらず、当初、ジョニー・デップの方がただ一方的に断罪されていたのは事実である。 一般的には、こう言うことを指してフェミニズムと捉えら…

『シン・ウルトラマン』についての評いくつか

みのミュージックのみのさんとライムスター宇多丸さんがともに『シン・ウルトラマン』についての評を上げていて、私が分からなかったあの画角だけど、あれは実相寺昭雄の画角だそうだ。 映画の後半についての評価はおしなべて辛い。岡田斗司夫は退屈で寝たそ…

『ジョン・コルトレーン:チェイシング・トレーン』

ジョン・コルトレーンは生来が宗教的な人だったようだ。世俗的な成功に喜びを見出せない。どの写真を見てもそんな顔をしている。源氏物語に例えるなら宇治十帖、マイルス・デイビスが光源氏とするなら。日本での根強い人気にはそういうムードがある。受容の…

『トップガン マーヴェリック』

『トップガン』は、5年に一度、10年に一度とかしか映画を観ない人が、前作を観て、今作を観て、そしてもう一生映画を観ないとしても、それで満足できる映画だと思う。 映画はマーベルしか観ないって人がいたら、ちょっとどうかなぁと思うだけだが、映画は…

『ベルファスト』

『ベルファスト』は、監督をつとめたケネス・ブラナーが、故郷の北アイルランドのベルファストですごした少年時代を描いた、ほぼ自伝的な映画だそうだ。 その意味では、モノクロームの画面もあり、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA』を思い起こさせる。…

『シン・ウルトラマン』

初日に観る『シン・ウルトラマン』。 庵野秀明は『シン・エヴァンゲリオン』よりはるかに楽しんでる。たぶん、エヴァとウルトラマンとでは当然ながら庵野秀明のスタンスが違う。シンプルにウルトラマンのファンとして楽しんでいると見える。驚いたことに三木…

『クラム』

crumb2022.com 1994年のこの映画がなぜ急に公開されることになったか、とにかくすごく面白い。 画廊主の話によると、ロバート・クラムは現代のブリューゲルにして、 ピーテル・ブリューゲル《聖アントニウスの誘惑》現代のゴヤ、 我が子を食うサチュルヌスま…

ジャンフランコ・ロージ監督の『国境の夜想曲』

『海は燃えている』で、難民が続々と押し寄せるイタリア最南端のランペドゥーサ島を描いたジャンフランコ・ロージ監督が、シリア、イラク、レバノン、クルディスタンの国境の夜を淡々と写した。3年間をかけて80時間カメラを回した。3年間で80時間はけして長…

『香川1区』

大島新監督 『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編で、去年の総選挙、小川淳也の選挙区、香川1区の選挙戦をレポートした。 『なぜ君は総理大臣になれないのか』公開の翌年ということもあり、同じ選挙区で長年競っている平井卓也デジタル庁担当大臣の不適…

『牛久』

3月18日まであつぎのえいがかんkikiで『牛久』が公開中。www.ushikufilm.com 日本政府が現在進行形で行なっている国家犯罪の中継映像。 おぞましいのは、入管側が記録のために残している映像がいちばん暴力的であること。これなら公開してもいいかと入管が判…

『ダーク・ウォーターズ』

『ダーク・ウォーターズ』は、単にアメリカ映画だけでなく、アメリカ社会の良心と勇気を身に染みて思い知らされる、「傑作」などという言葉でさえ薄っぺらに感じられる、胸に響く映画だった。 『ダーク・ウォーターズ』は、デュポン社が40年間も隠蔽してきた…

『発酵する民』

この手のドキュメンタリー映画だと、途中で席を立つ人がいる。しかし、映画の冒頭の献辞に「発酵とは、微生物による分解現象のうち、特に人間に役立つものを言う。そうでないものを腐敗という。」とあった。つまり、映画は十分に自覚的に仕掛けてきている。…

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

ウエス・アンダーソン監督の最新作は、雑誌文化へのオマージュでありレクイエムであり、そのパロディでもある。 紙の雑誌というものはどうやら滅びるらしいのだが、そんな終焉の時から振り返って考えてみると、日本からはついに世界中に読者を持つ雑誌は生ま…

『エッシャー通りの赤いポスト』

去年、ハリウッドデビューで話題になった園子温監督、ニコラス・ケイジ主演の映画『プリズナー・オブ・ゴーストランド』はひどかった。園子温監督はもう終わったのかと思った。しかし、水道橋博士のYouTubeで語っていたところによると、あの脚本は園子温監督…

『大怪獣のあとしまつ』

三木聡の映画は2007年の『転々』あたりからずっと観ている。 『転々』も見事だったんだけれども、なんといっても『インスタント沼』が素晴らしく、日本のコメディ映画史上唯一無二の傑作だと思う。三木聡作品はもはや三木聡というジャンルなのでそういう味わ…