『ボーはおそれている』

 2月16日に公開された『ボーはおそれている』を今さら観た。3時間となるとよほど観たい映画でないとぐずぐずしてしまう。
 アリ・アスター監督の『ミッドサマー』は観たけど、世評の高さほどには好きじゃなかった。あのカルトな感じが私にはステレオタイプに見えた。聖なる何かにションベンした奴が殺されるんだけど、あの描写で「作りもの感」が出ちゃって、そのあとは入れなかった。
 あのカルトの連中は主人公たちを騙す目的で引き込んでるわけなので、そんなアクシデントは未然に対処してるか、さほど気にしないふりをするかのどちらかだと思う。
 カルトの恐怖は人の怖さなので、人のリアリティを失うと怖くなくなる。サメの水槽に落ちたって恐怖とは違うべきだと思う。
 そういうわけなので、ホアキン・フェニックスアリ・アスターは、果たしてどうなるんだろうという興味はありながら、3時間と言われると二の足を踏んでしまっていたわけ。あまり評判もよくなさそうだし。
 しかし、『ボーはおそれている』の方が『ミッドサマー』よりはるかに面白かった。3時間は全く気にならなかった。『ミッドサマー』は悪夢っぽいだけだが『ボーはおそれている』は全編、これぞまさに悪夢だった。悪夢の見せ方が多角的で重層的。夢から醒めたと思ったらまた別の夢の中みたいな。そしてその悪夢に一貫性がある。町山智浩によると、キリスト教とかユダヤ教ヘブライズムの隠喩があるらしいが、それを知らなくても、普遍的な母性の抑圧は伝わる。
 はちゃめちゃに見えるけど心理にウソがない。たぶん『ミッドサマー』みたいのをもとめてきた人には評価が低いだろうが、『ミッドサマー』は退屈だったと思ってる人にはお勧めしたい。
 もし今そんなに評価が高くない(というか大こけしてる)のがほんとなら、将来的にはカルト的な伝説になる気がします。

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