大英博物館で好評を博した「春画展」が、本国日本では3年も宙に浮いたまま凱旋開催されず、結局、大英博物館の展覧会とは違うかたちで、改めて永青文庫で開かれることになった経緯を描いた映画『春画と日本人』も面白かったし、勉強になったが、今回の映画は春画のより深いところに迫っている。
名作と言われる鳥居清長の《袖の巻》や
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喜多川歌麿の《歌満くら》
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などは、春画のなかでも粋と洗練の極みなのが改めてよくわかった。こうしたマスターピースを生み出す山の頂から裾野にかけて、目も眩むような春画の世界が広がっていた。
これも有名な葛飾北斎の「蛸と海女」
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などは、その奇想もさることながら、どちらかというと目を引くのは、デッサンの確かさだと思う。のけぞって突き出ている腹とそのせいでうわずっている豊かな髪、そのうなじを支えている子蛸の腕、蛸の手と絡む女の腕など。ここまで少ない線で女体の肉感が出せるものだろうかと感嘆してしまう。よく見るとタコの手がクリトリスの皮を剥いている。
もちろんエロいのだけれど、そのエロさをこちらに伝えてくる北斎の画力に魅了されてしまう。北斎は全画業のほんの一時期しか春画を描いていないそうだ。
話がズレるが、北斎の春画はもしかしたら娘の葛飾応為が描いてるんじゃないかと妄想してしまう。北斎自身も「女は応為のほうがうまい」と認めているし、ありうるんじゃないかなと。
いずれにせよ真相は判りようはないが、今という時代は、北斎が齢90まで絵を描き続けたという逸話と同じくらい、晩年の絵はほとんど葛飾応為が描いていたという妄想が愉快な気がする。女性だからこそこれが可能だったんじゃないかと思わせる骨格の確かさがある。
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『哀れなるものたち』の時にも書いたが、こういうおおらかな絵を見ていると、ひるがえってキリスト教が性生活に及ぼした抑圧がよくわかる。その抑圧がクリトリスの切除にまでいってしまう。キリスト教徒にとって女は聖母マリヤなのだ。男の性欲が常に背徳感と繋がっているので、女性を神聖視する裏返しとして女性に快楽を許さない。キリスト教徒にとって、悪魔的な快楽は男の占有であって、女はその捌け口でなければならないのだ。
仏教での色欲はもちろん煩悩ではあるけれど罪悪ではない。時々、浄土真宗とキリスト教が似ているっていう人がいるんだけど、たぶん煩悩と罪悪の違いがわかってないと思う。煩悩即菩提とか悪人正機とかいう考え方は神がいないからこそ可能なのだと思う。
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月岡雪鼎のこの絵などは愛液に濡れた陰毛が美しい。ここに描かれているのは間違いなく愛なのである。
今回、歌川国貞の《相生源氏》の実物が紹介されてた。空刷りと言われるエンボス加工に加えて、これは技法が豪華すぎて画像で紹介できない。動画でしかわからないだろう。ぜひ映画で見てください。
歌川国貞は、往時は大変な人気を博した絵師なんだけれど、今、一般的な浮世絵の展覧会などに行くと、粗製濫造のためもあって、この人が何でそんなに人気があったのかよくわからない。永井荷風も国芳の方が上だと書いていた。
しかし、春画も含めて女の絵となると国貞は輝きを増す。《相生源氏》は、とうてい版画とは信じられない。肉筆じゃないのかと疑いたくなる。春画はそもそも表向きの販売網に乗らない絵なので、規制もないし、コストも度外視して作れたということもあり、当時の刷り師、彫り師の腕前が存分に堪能できる。その意味でも春画をちゃんと見ておくことは重要だと思う。
明治の廃仏毀釈的な日本文化の否定の反動で、春画のおおらかで肯定的な面を強調したくなるが、もちろんそんな一面だけではないことは、先ほどの北斎の絵からもわかる。
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この幽霊はどういうことやらようわからん。
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