「おくりびと」

knockeye2009-03-06

なるほど、2008年は日本映画の当たり年だった。
見逃していた「おくりびと」も、アカデミー賞のおかげで観ることができた。
想像していたよりもずっと骨太い。もっと才走ったものかと邪推していた。
人の死は、それ自身がドラマを主張する使いにくい絵の具だが、この映画は、「納棺師」という職業人を主人公に据え、それぞれの死のドラマを脇にしたがえて、朴訥といってもいいほどくっきりとメインストーリーを彫り上げている。
メインストーリーは、たくさんの死ではなく、かえってそこから浮かび上がる生だろうか。
旧・海坂藩あたりの風景も忘れられない。石のエピソードは、四季が移ろうあの山と河があってこそだろう。
笹野高史がいい。吉行和子余貴美子杉本哲太、考えてみれば贅沢な脇役たちだ。
余貴美子を初めて見たのはたぶん、「噛む女」だったと思う。20代のころだからずいぶん昔だ。日本映画は成熟したのだなぁと素人ながらに思った。
死と暴力が切り離せないハリウッド映画に較べて、ここに描かれている死は、ありふれていて、そして美しい。生を損なったり貶めたりしない死。大げさに言えば、この映画はあらためて死を発見している。
おくりびと」に贈られたアカデミー賞は2008年という年のブックマークにしたいと思う。