「BUSTIN’ DOWN THE DOOR」

knockeye2009-08-22

海の民が暮らす常夏の島に、あるとき異国の若者が訪れる。そんな神話のそもそもの始まりから、砂浜に三脚を立ててカメラを回していたら。
はじめてオアフ島のノースショアを訪れた夜、地響きのような海鳴りを耳にして目を覚ました。そう語るインタビューを聞きながら、そんなことを思っていた。
映画「バスティン・ダウン・ザ・ドア」は、プロサーフィンを作り上げた若者たちの、いわば創世の叙事詩。製作総指揮に当たったのは当時の若者たちのひとりショーン・トムソン。
このタイトルについて
「すぐに思いついたよ。ラビットが1976年のサーファー・マガジンに書いた、我々とハワイアンの間に起こった摩擦について綴った記事のタイトルさ。」
もしなにかを始めるつもりなら「ノックなんてせず(BUSTIN' DOWN THE DOOR)ドアをぶち破らなきゃダメだ」と書いたその記事が、彼ら自身に深刻な試練を与えることになるのだけれど、しかし、35年の後、映画のタイトルにすぐにこの言葉が思い浮かぶのは、結局、彼らはドアをぶち破ったのだし、そのドアは彼らにぶち破られるためにそこにあった。
もちろん、映画はハワイアンのサーファーたちにも公平に描かれている。もし、ハリウッド的な作り物の映画なら、悪役に描かれるだろうブラックショーツやその中心にいるエディ・ロスマンでさえ、本人が登場してインタビューに答える。当時の事件についても事実がありのまま語られている。
ハワイアンのレジェンド・サーファー、エディ・アイカウについて語り始めると、すこし映画の内容に踏み込みすぎることになるだろう。
パンフレットにある、ショーン・トムソンの「日本のファンにメッセージを」というインタビュー、
「是非、映画を楽しんでください。
(略)
大きな夢があり、巨大な波が押し寄せるように未来がある、それから逃げるのか、それとも立ち向かうのか、我々は決断をし、それが人生を変えた」
映画を見ればわかるように、オーストラリアや南アフリカからやってきた彼らが決して恵まれていたわけではない。ただ、サーフィンにかける思いだけでハワイにやってきて、そして世界を変えた。
サーフィンの映像も素晴らしい。なにしろ、本人たちが作っているので、
「それぞれの最高のライディングシーンをきっちり見つけてきて映画に入れる」
ために
「結局19本もの70年代サーフ映画から」
ベストなシーンを拾ったそうだ。
映画の中で、現在の彼らがノースショアの波に乗り出していく。そのシーンが当時の彼らの映像と重なると、まるで海が彼らを若返らせたかのように見える。肝心なのは、彼らが今でもサーファーだということなのかもしれない。創世記の若者たちは今もまだ海にいる。
これは世界で一番新しい創世記、エディ・アイカウの魂に捧ぐ、生まれたての神話だ。
若者のほんものの情熱と勇気を、是非観にいって貰いたいと思う。