ロートレック展

渋谷のBunkamuraでロートレック展。目黒から山手線で二駅。渋谷は人が多い。
今年は、三井記念美術館で300点もの浮世絵を見て、葉山でアンリ・リヴィエールを見たので、浮世絵がフランスの画家たちを魅了した感じがなんとなく分かってきた気がする。
おなじ‘ジャポニズム’といってもモネが印象を受けたのが水墨画だったり、ナビ派のそれが琳派だったりだとすれば(このへんかなりいいかげん)、ロートレックやアンリ・リヴィエールは間違いなく浮世絵である。そして推測だが、ロートレックは浮世絵のエロティシズムにもっとも心を寄せた画家なのではないかと思う。
貴族の肖像画とは程遠いしどけない庶民の日常の姿態。そういう人の‘手触り’がロートレックの絵には感じられる。
歌姫イヴェット・ギルベールが、ロートレックより、スタンランやジュール・シェレに描かれることを好んだのも分かる気がする。彼らに描いてもらった方が‘きれい’なのである。今回写真も展示されていたが実際きれいな人なのだし。でも、私たちはロートレックの絵の方を好む。そのえの前に立つと思わず顔を近づけてしまうし、その表情をとくと見た後には思わず笑ってしまう。踊り子ジャヌ・アヴリルの絵なんかとくにその姿から人柄が伝わってくる。こういう表情の豊かさを、ロートレック写楽北斎歌麿から学んだのだろう。
ロートレック以外の人の絵も展示されていたのだけれど、そのなかで、ボナールのリトグラフが二点。<『ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター>と<第23回サロン・デ・サン展>のポスター。このふたつがすごくセンスがよくて垢抜けていて「あれっ」という感じ。というのは、ボナールの油絵はどちらかというと色と光が溢れすぎていると感じることが多いので、このおしゃれな感じが意外なのである。こっちの方が好きかもしれないと思うのはまちがってるのかなぁ。
アルフォンス・ミュシャの‘サラ・ベルナール’もあった。世田谷で、サラ・べルナール愛用の椅子を見てから、私はこの女優の存在感のすごさを再認識した。‘夢見るようなサラ’なんて言葉にごまかされてしまうが、今のそのへんのアイドルとはまったく格がちがう。そう思って見るとこの美貌がしたたかに見えてくる。この美しさは強さだったのである。