「今度は愛妻家」

knockeye2010-01-30

もう三年も前になるか、「バブルへGO!!」のお母さん役には、まだ踏ん切りがつかないようだった薬師丸ひろ子だが、この映画では、目じりに盛大にしわをよせて、魅力的な笑顔をみせてくれている。肩まで届かないほどの豊川悦司と、並んで歩いていく後姿が心に残る。
このキャスティングができた時点で、成功は約束されていたのではないか。どこか少年性の残る豊川悦司の声もいい。
沖縄の海でぞうりを洗う後姿、ホテルに忘れてきた指輪をとりにかけていく後姿、あるいは、雪の降り始めた夜の街を歩いていく後姿と、後姿が印象的な映画だ。
‘時代の象徴としての後姿’という意識は、作り手にもあったと思う。井上陽水の「夢の中へ」が劇中歌として使われているのもきっとそういうことだろう。
舞台はほとんど豊川悦司の部屋を出ない。登場人物も少なく、舞台劇にも置き換えられそうだ。
ただ、仕掛けはわりと早い段階でばれる。遅くとも井川遥の登場あたりでは確実にばれている。それをばらさずに引っ張っていく演出もありえたと思うけど、そこはあまり口に出来ない気がする。なにしろ、「シックスセンス」でさえ‘最初からおちがわかった’という小林信彦みたいな人もいるわけだから。
むしろ、豊川悦司薬師丸ひろ子石橋蓮司の芝居の力が、観客の期待を越えて物語を引っ張っていってくれると思う。
大人のおとぎ話に、気持ちいい涙を流して帰ればよいのではないかと思う。
ただ、どうなんだろう。水川あさみの吉川蘭子と濱田岳古田誠の若い男女の恋愛は、主人公夫婦のそれとは、もっと対照的であったほうがよかったのではないかとも思う。あそこに世代と価値観の対立を忍び込ませれば、主人公夫婦がもっと際立っただろうか。これは、われながら余計なお世話と思うけれど。