歳暮の茶 

 土曜日にひきつづき日曜日もよい天気だった。ということを、実は、水曜日に書いている。年の瀬はあわただしく、あっという間に時が過ぎていく。
 日曜日は展覧会をみっつ。
 まず、根津美術館で「絵のなかに生きる 中・近世の風俗表現」
 <聖徳太子絵伝>、
弘法大師絵伝>、
<北野天神縁起絵巻>、
<蛙草紙絵巻>、
玉藻前物語絵巻>、
伊勢物語図>、
曽我物語図>
 と列挙していくとわかるように、絵のなかに描かれた群衆や群像表現に焦点をあてた展示ということのようだ。
 時間的には年表めいて、空間的には俯瞰的な、なんとなく平板で、無作為な羅列のこれらの群像表現が、あわただしいなかにも、ちょっと来し方をふりかえる気持ちになる年の暮れの気分に、どこかふさわしい。
 なかでも私がもっとも惹きつけられたのは<犬追物図>だ。六曲一双という広い画面に、ちまちまと書き込まれた人、人、人。
 ブリューゲルみたいなのを思い浮かべてみてもいいけれど、あれよりももっとおおらかでゆったりして感じられる。
 はしっこで、子供の膝を抱えておしっこをさせているお母さんとか、屋台の御茶屋さんでお茶を飲みながら雑談している人、川向こうから犬追物を眺めている人たちなど。ついしばらく見入ってしまう。これで、絵のこちら側でもお茶の一杯も振る舞われたなら、もっとゆっくりしていられただろうと思うけれど。
 同時開催のテーマ展示の一つに、「歳暮の茶」と題された展示があった。
 これは、この美術館の創設者、根津嘉一郎が、年の瀬に親しい人たちと一年をふりかえって催していた、歳暮の茶会に擬して、茶道具を展示していたのだったが、なんかほんとにお点前にあずかったような気分になれる、こころにくい展示だった。
 「此の世」という銘の井戸の香炉があり、赤楽茶碗の銘は「冬野」、茶杓の銘は「大晦日」、備前焼の水指の銘は「黙雷」、瀬戸焼の茶入の銘は「節季」。織部の吊柿文茶碗と、干し柿のような渋い色をした柿の蔕茶碗 銘 「瀧川」に、暦手茶碗の銘が「年男」だった。
 それにしても、どうしてあの茶杓の銘が「大晦日」なんだろうと、つらつら考えつつ美術館を出た。あるいは、此の世は、あの井戸の香炉に若かないか、芥川をまねて言うならば。