『カーマイン・ストリート・ギター』

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カーマイン・ストリート・ギター

 「カーマイン・ストリート・ギター」は、ニューヨークの建築廃材を母材にギターを作っている。ただの目先の変わった思いつきかと思いきや、ニューヨークで取り壊される古い建物の建材は、100年以上の時を経た天然の木材なのでギターにすると響きがとても良いそうなのだ。切り出した木材を、ギターのために100年寝かしておくのはとても難しいわけだから、ニューヨークの建築廃材は、ギターのために理想的なわけ。
 で、そう書いちゃうと、もうそれ以上の情報が何か、この映画にあるかというと、それ以上のことはない。ただ、このギター屋さんの日常が淡々と描かれているだけ。
 店主のリック・ケリーさんもすごく普通のおじさんだし、何なら、監督のロン・マンさんも普通すぎるくらい普通。有名なギタリストたちが店を訪れるのだけれど、ふむふむ、どれどれ、ぼろろん、くらいな感じ。「いやあ、ここだけは昔と変わらないね」みたいな。
 観客としては、だから、そのグリニッジビレッジの昔をすこし見せてよと思うのだけれど、そんな気はさらさらないみたい。もっとも、その「ぼろろん」の部分はすごく音がいい。
 店主のリック・ケリーさんが、なるほど、そういえば、ギターくらいの大きさの木材を、小脇に抱えて、というか、でかすぎるセカンドバッグみたいに持って、通りを渡っている、晴れた秋の日、なんて映像を観ていて、どうして、その板を受け取る一部始終をカメラに収めなかったのか不思議に思った。
 解体される老舗のバーのカウンターっていう映像があるともっとよかったと思うのは確かだが、そういう欲のなさも監督の個性なんだろう。

 ニューヨークに関するドキュメンタリーでいえば、フレデリック・ワイズマンの『エクス・リブリス‐ニューヨーク公共図書館』や『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』の方に厚みを感じるが、それと併せて考えて、カーマイン・ストリート・ギターのような店が存在するニューヨークの成熟度みたいなことを考えた。
 日本を舞台にした同じような映画をあげるとすれば、『築地ワンダーランド』とかになるかも。

 ただ、築地はなくなっちゃった。
 地方に目を移すと『YUKIGUNI』。

 井山さんが部屋でひとり、新内節のレコードを聴いている姿が印象的だった。