狼は天使の匂い

狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

軽い感じのものが読みたくなったので、丸谷才一の書評集に出ていた、このハヤカワミステリーのものを読んだ。
原題は「Black Friday」で、この邦題は、これを原作としたルネ・クレマン監督の映画が、日本に公開されたときつけられた。
しかし、映画の内容は原作とかなり違うらしく、そのシナリオは「ウサギは野を駆ける」というタイトルで、同じくハヤカワミステリーに収められているそうだ。1974年のことで、そちらの方はとっくに絶版になっている。
その原作がどういうわけか2003年になって邦訳され、それを丸谷才一が書評で取り上げて、それを私が読んだわけだけれど、多分、丸谷才一はミステリー小説としてこれを推したわけではなさそうだ。
小説のかくれたテーマは、主人公ハートとその兄と、ポールとマーナの兄妹関係にあると思う。ハードボイルドな描き方のせいで、骨太な悲劇に仕上がっている。
寡黙な主人公の内面が、少し饒舌に語られすぎているように思えないでもない。つまり、少しかっこつけすぎているように思えなくもないということだけど、それは、ハードボイルドの常套なのかもしれない。
チャーリーやフリーダなど、登場人物の目鼻立ちもくっきりしていて強い印象を与える。
しかし、もう一味何かほしいような、たとえていうと、好きな作家の、さほどうまくいかなかった本、みたいな読後感だった。
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ビリー・ワイルダーの映画をまたまたDVDで見た。
このヒロインは、もしかしたら、シャーリー・マクレーンではないのかと(このへん、映画通の人が読んだら絶句するだろうな)思ったらその通りだった。ニコール・キッドマンの『奥様は魔女』にも出ていたけれど、年をとってもチャーミングに見えるタイプの女性っているものである。
いまさらこの映画についてあれこれ書くのはさすがに憚られる。でも、1960年の映画が今見ても面白いというのはすごいことだし、この週末公開される映画と、1960年の映画、どちらを見ようかと迷うことが別に珍しくもないわけだから、観客の無言の評価は、映画祭の賞などより、昔に較べて信憑性があがっても当然だろう。