『フェイブルマンズ』

 この1週間くらいで『フェイブルマンズ』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、『フラッグデイ』、『ワース 命の値段』、『BLUE GIANT』を観たが、その中でもし人に薦めるなら『フェイブルマンズ』。
 『フェイブルマンズ』は監督のスティーヴン・スピルバーグの自伝という宣伝の仕方をしているので、焼きが回って懐古的になってるのかと思いきや全然そういうことではなかった。そう言われなければ、自伝的内容だとさえ気がつかないくらい。「フェイブルマンズ」のタイトルどおり「フェイブルマン家」の家族の物語と思って観る方がいいと思う。
 主役はサム・フェイブルマンという映画好きの少年を演じるガブリエル・ラベルに違いないけれど、その父母にそれぞれポール・ダノミシェル・ウィリアムズを当てたキャスティングがやっぱり配役の妙で、ここが魅力的。ポール・ダノと言えば『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ラブ&マーシー』、『グランドフィナーレ』とかの演技が心に残ってます。ミシェル・ウィリアムズは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の奥さんの役。この2人が主人公の父母を演じる訳で、ここに映画の重みがずしんと加わる感じですね。特に、ミシェル・ウィリアムズは、アカデミー主演女優賞にノミネートされてますし、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のミシェル・ヨーを抑えて受賞したとしても驚かないくらいにすばらしいと思いました。
 『エブエブ』に比べると地味には違いないですが、でも、シナリオがじっくりコトコト煮込まれてる感じで、サム少年の撮る8mm映画がストーリーに絡んでくるあり方がすごくうまい。この辺りの映画内映画の使い方を見てもこれがスピルバーグの自伝なんてことではない。っていうか、そういうことはどっちでもいいってことがわかります。
 カメラが真実を写すとも言えるし、カメラが嘘をつくとも言えるけれども、いずれにせよ、映像が不思議な力を持っているってことをこんなに見事に描いてみせた映画は他にちょっと思いつかない。それを「自伝的映画」を「隠れみの」にして描いたのがさすがだと思います。
 だって、凡百の作家は作品にかこつけて自己を語りたがりませんか?。でも、スピルバーグは、自伝に見せかけて映画そのものを語っている。最後にデヴィッド・リンチが大監督役で出てきて、文字通り「映画の秘密」を語ります。強いとは何かと問われた時の大山倍達の答えとか、仏教とは何かと白居易に問われた時の鳥窠禅師の答えに似ています。渋いラスト。


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