補遺

『栄光なき凱旋』の主人公をうっかりジロー・モリタと決め付けてしまったが、ヴォイスというのか、語りの問題で、もし、ヘンリー・カワバタの一人称でこの小説が書かれれば、近代日本の私小説みたいなものになりかねない。逆に言えば、真保裕一は、私小説の主人公から一人称の語り口を奪って、ハードボイルドの世界に放り込んでしまった、ともいえる。その意味で、ヘンリー・カワバタはすごく面白い。
ジロー・モリタが主人公だと思ってしまう原因はエピローグにある。彼が主人公ではないと思わせる終わり方もありえたと思うが、それは余計なお世話、もちろん。どっちにしても、もし映画化されるとすれば、織田裕二がやるのはジロー・モリタかな?ヘンリー・カワバタのほうがオイシイ気もするが。