- 作者: 姫野カオルコ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/11/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「親が子供を愛するのは自然な感情だ」とかいう類の、根拠のない幻想が、賞味期限の切れた道徳の前提にすぎず、傲慢で独善的なのかがよくわかる。結論から先に言えば、「他者」と生活をシェアするのが結婚なんだし、子供を育てることは、「他者」とは何かを教えることのはずだ。ところが、この両親はそもそも自分自身の社会性すら確立していない。
愛するという行為が、自己と他者の関係を前提として成り立つ社会的な行為である以上、社会性が欠如した人物には、相手が我が子であれ、配偶者であれ、その行為自体が不可能でしょう。社会性が欠如した親は子供も愛さない。だから、子供を愛さない親はいくらでもいる。
私小説的な独白でなく、あるローカルコミュニティの「人生相談」という形式をとっているのもすごくはまっている。他者に答えてもらわなければならないので、他者の視点を、観客のようにではなく、共演者のようにとらえざるえない。他者が、劇的にではなく、社会的に存在することで、この主人公はすでに少しは救われているわけだろう。
「子の親殺し」はエブィプス王の悲劇以来の文学のテーマだけれど、この小説はちょっとユーモアを交えつつも、その古典的なモチーフで、日本社会の現実に挑戦している。
日本人は、封建的な道徳の残骸以外に、なにか社会的な規範を持ち得ているのか?と問われると、かなりお寒いことになると思う。この小説を読んで、儒教道徳しか引っ張り出せない人と、どんな話をしたらいいのか、その断絶がとりもなおさず、日本社会の断絶だと思うので。