虚礼

私が勤めている会社は、個人情報保護法のからみでか、それとも、なんなのか知らないが、年賀状のやり取りさえしない社風であるらしい。
大体、住所も知らないのだから、年賀状など出しようもない。
虚礼廃止などという言葉が昔あったが、そういう流れを経てきたのか、もちろん、お中元やお歳暮などのやり取りもない。
お中元やお歳暮などという習慣は、昔懐かしい響きさえある。廃れてきたのは、たぶん「家」の意識が薄れてきたためだろう。「本家」だの「母屋」だのという言葉が、実感を伴っていてこそ意味のある習慣だった。
それに代わって勃興してきた互酬の制度は、いわずと知れたセントバレンタインデーである。
義理チョコの山を抱えて帰った、といえば少し誇張になるけれど、もう少し大きな職場で働いている人たちなら、本当にそれに近いものがあるのではないか。しかしながら、人間関係が希薄になるなか、年に一回、このくらいの手ごろな価格で、もののやり取りをするのは悪くないだろうとおもっている。
それにしても、妙な習慣が根付いたものだ。日本だけの奇習ではある。
去年は、セントパトリックデーに東京タワーを緑色にライトアップしていたが、今年もやるのだろうか。
セントパトリックも、セントバレンタインも何者かとんと知らないけれど、世の中、何が根付くか分からないのである。